世界中のパノラマフォトグラファーたちに愛用されている360度カメラRICOH THETAのフラッグシップモデル、RICOH THETA Z1。1型センサー搭載による高画質と、RAWフォーマット対応による画像編集の幅の広がりで、世界中のプロカメラマンたちにも多く使用されています。

中でもニューヨーク在住のカメラマン Sam Rohn(サム・ローン)氏は、世界で影響力のあるパノラマフォトグラファーのひとりです。今回はそんなSam Rohn氏に、THETA Z1を活用した360度画像の撮影テクニックについて、インタビューしました!

360 photography life

Samさんは、どのようなことがきっかけで360度画像の撮影を始めたのでしょうか?

1990年半ば頃から、映画やテレビのロケーションスカウトとして撮影の仕事を始め、その頃からパノラマ撮影にも携わっていました。最初はフィルムを使った撮影でしたが、1998年頃にはデジタルカメラの登場で、デジタルによるパノラマ撮影に興味を持つようになりました。

その後QTVRパノラマ*1による撮影に魅力を感じ、2005年頃には360度パノラマ撮影のプロカメラマンとして活動するようになりました。360度パノラマ撮影は、今でもずっと私を魅了し続けています。

*1 QTVRとは、Apple Computer社が開発したマルチメディア技術「QuickTime」によってサポートされている技術のひとつで、複数の画像を合成して一続きのパノラマ画像にする技術です。

どのようなジャンルのお仕事で、360度画像が活用されているのでしょうか?

多くの場合は、広告プロジェクトやVR仮想ツアー用として、360度パノラマ画像撮影をしています。ジャーナリズムや結婚式、イベントなどで360度撮影することもあります。

本格的な一眼レフカメラで撮影した画像をつなぎ合わせて360度画像に編集することも多いのですが、THETA Z1はワンショットで360度撮影できるので、動きがあるような臨場感のあるイベントや、ジャーナリズムでの撮影に適していると考えています。

SamさんはTHETAをよく活用されているようですが、いつ頃からTHETAを使っているのでしょうか?

THETA初号機がはじめて登場した2013年からです。初期のモデルは解像度が低く、画質があまり良くありませんでしたが、2019年に発売開始したTHETA Z1でその機能が劇的に向上しました。

THETA Z1で撮影したRAW(DNG)データには、とても多くの色情報やディティールの画像情報が記録されています。そのRAWデータをAdobe Lightroom Classicを使って画像編集することで、デジタル一眼レフでの撮影に匹敵するような画像品質を実現できるようになったのです。

THETAを使い始めて8年にもなるのですね!Samさんは長年360度パノラマ画像撮影に携わっていらっしゃいますが、昨年からのコロナの影響で、Samさんのパノラマ撮影のビジネスには大きな変化があったのではないでしょうか?

コロナによる外出制限の影響で、多くのクライアントが360度画像を使ったバーチャルツアーの価値に気が付き始めました。例えば、不動産物件や高齢者施設・病院のように簡単に内覧に行くことができなくなった場所で、バーチャルツアーが多く求められるようになりました。

また他にも、美術館や文化施設のバーチャルツアーの画像をWeb上に掲載することで、学生たちが遠隔から施設をバーチャル見学をすることができたりと、リモート教育にも活用されています。

Dual Fisheye Plug-inで撮影・編集:この画像はBrooklynのtownhouseで撮影したものです。Dual Fisheye Plug-inによる撮影を行うことで、屋内空間と窓の外の景色が、どちらも鮮やかでダイナミックレンジの広い画像に編集することができます。

Shooting tips

Samさんが360度撮影する場所やシーンは、いつも素晴らしいですね。どのように撮影ロケーションを探しているのでしょうか?

360度撮影に適した場所は、少なくとも1か所は見る人の注目を引くようなアクセントが必要で、その周りにも興味が持てるような情景の要素がいくつか必要になります。ただ、普通のカメラ撮影でも同じだと思いますが、もっとも肝心なことは「光」です。

たとえば、昼間はなんてことのないような場所でも、暗闇の中で素晴らしい景色に変わることがあります。また、昼間はとてもフォトジェニックな場所が、夜も同じであるとは限りません。嵐の後は、光が魔法のように素晴らしく変わる場所も、普段は何の変哲もない場所だったりします。撮影に適した最高の「光」がある場所を見つけるためには、忍耐、そして経験の積み重ねが必要になるのです。

Dual Fisheye Plug-inで撮影・編集:この画像は、マンハッタンにある建物の屋上です。日没直後の空の色と雲の様子が重なって、とても素晴らしい景色になりました。

夜景・屋内・昼間の屋外の撮影をする際の、撮影設定や撮影の仕方でコツがあれば教えてください!

夜景

通常のRAWモード(RAW+JPEG)で夜景を撮影する場合は、影の部分のノイズを軽減するよう、ISOをできるだけ低く設定し、ハイライトを露出しすぎないように長時間露光で撮影します。Dual Fisheye Plug-in のHDR-DNGモード*2を使っても、きれいに夜景を撮影することができます。露出を変えた9枚のRAWデータ(DNG)を、1枚のHDR-DNGデータにTHETA Z1本体内で合成してくれるので、1枚のRAWデータで露出設定した画像では表現できないような、よりダイナミックレンジの広い画像になります。

このような長時間露光での撮影や、撮影に20秒ほど時間がかかるDual Fisheye Plug-inのHDR-DNGモードの撮影では、THETAがぐらつかないように、とても頑丈な一脚と三脚を使用して、被写体がぼやけないように気を付けています。

*2 THETA Z1/Vで対応している数々のプラグインの中でも、世界中で最もインストールされているプラグインが、Dual Fisheye Plug-inです。個人のTHETAユーザーである、Ichi Hirota氏に開発されたこのプラグインの中でも、HDR-DNGモードは、最大9枚の露出を変えたRAWデータを、1枚のHDR-DNGデータに自動で合成することができる機能です。よりダイナミックレンジの広い画像編集ができるため、バーチャルツアーを目的として、世界中の写真家たちに活用されるようになりました。 詳細はこちらの記事をご覧ください。

Dual Fisheye Plug-inで撮影・編集:これはニューヨークのPublic Libraryの前で、2020年3月にニューヨークがコロナでロックダウンした初日の夜に撮影したものです。通常であれば多くの車や人の通りがある場所なのですが、この夜は街中が空っぽになりました。

屋内

Dual Fisheye Plug-inのHDR-DNGモードは、9枚の撮影に最大20秒ほど時間がかかるため、人が全くいないような屋内での撮影に適しています。最大9枚の露出を変えた画像を、自動で1枚のHDR-DNGデータに合成してくれるため、ダイナミックレンジが広い、素晴らしい画像データを撮影することができます。

もし通常のRAW撮影で、マニュアル設定して撮影する場合は、ISOを低めに設定し、ハイライトが上がりすぎないように、露出を適切に設定します。もし動く人がいる場合は、ISOを高めに設定し、シャッタースピードを1/30かそれ以上にすることで、動く被写体がぼやけないように気を付けています。またこの場合でも、THETA自体が動いて画像がぼやけたり、スタンドが転倒しないように、非常に頑丈な一脚や三脚の使用をお勧めします。

Dual Fisheye Plug-inで撮影・編集:これはマンハッタンの古本屋で撮影したものです。ニューヨークではここ数年多くの古い店舗が閉店しました。このようなニューヨークの歴史ある店を記録するため、個人的な活動として撮影しました。とても特徴的なお店で、パノラマ撮影には適している場所でした。

昼間の屋外

日中屋外での撮影時は、通常のRAW撮影(RAW+JPEG)を行うことが多いです。影やハイライトが持ち上がるように、ISOをできるだけ低くして撮影します。シャッタースピードの設定は、人や車など動く被写体があるかどうかによって変わります。

Dual Fisheye Plug-inのHDR-DNGモードは、昼間でももちろん活用できますが、動く被写体が多い場合は画像のゴーストが発生しやすくなります。そのため、ここでもTHETAを支える頑丈な一脚や三脚を使うことが大切です。

とても詳しい撮影のコツをありがとうございます!

Dual Fisheye Plug-in

Samさんは、THETA Z1で通常のRAW撮影だけでなく、Dual Fisheye plug-inも使い分けて活用されているのですね。Dual Fisheye plug-inはどのようなシーンで撮影に活用されているのでしょうか?

Dual Fisheye plug-inは撮影に20秒ほどの時間がかかるため、動く被写体がいないような屋内施設の撮影の場合に活用しています。もちろん、Dual Fisheye plug-inのHDR-DNGモードは、そこまで早くない被写体の動きであればゴーストが発生しにくいようにできているため、屋外でこのモードを使って撮影にトライすることもあります。ただ、ある程度動きのあるシーンでは、マニュアルによるHDRブラケット撮影・編集や、バーストモードによる複数枚撮影・編集を行っています。

Dual Fisheye Plug-inのHDR-DNGモードで撮影する場合、9枚の合成で撮影することが多いです。ただ、動く被写体のゴーストをより綺麗に低減するため、Dual Fisheye Plug-inのブラケットモードで撮影してマニュアルで画像を合成することもあります。また、ダイナミックレンジの広さよりもノイズの少ない影の実現を重視する場合は、バーストモードでISO値の高い画像を撮影し、マニュアルでその複数枚を合成しながらノイズを低減したりもします。

Dual Fisheye Plug-inで撮影・編集:これは、シカゴにあるArtworkの入り口で撮影した画像です。通常であれば人で溢れかえる場所ですが、コロナの影響で閉鎖され、モニュメントに近づくことができませんでした。このとき日没直後という、一番空や光の景色が綺麗な時間帯を狙って、Dual Fisheye Plug-inで撮影することができました。

*THETA Z1本体でも、本体ファームウェアを最新にすることで、RAWによるHDR合成撮影が可能になりました!詳細はこちらをご覧ください。

*Dual Fisheyeプラグインは、’Dual Fisheye RAW’として、新たにリリースしました!撮影時間が従来の20秒(9枚撮影時)→1秒以下に大幅短縮しました。詳細は、こちらをご覧ください。THETA Z1の本体ファームウェアを最新にすることも必要になります。

Accessories

Samさんのお気に入りのTHETAアクセサリーについておしえてください。

私のお気に入りのアイテムは、 Nodal Ninja Travel Poleという頑丈な一脚で、最高3メートルまで伸ばすことができます。またそれを支える三脚として、 Leofoto LS-223Cを一緒に使っています。

とても長い一脚ですね!これらのアイテムを使って撮影すると、どんな画像になるのでしょうか?

こちらです!これは、ブルックリンのPenthouseで、360度画像のバーチャルツアー撮影をした場所です。ここでは、3メートルの一脚を使って、バルコニーの端にTHETA Z1を設置し、まるでドローンで撮影したような画像を撮影することができました。

Samさん、ありがとうございます!今後もTHETAで撮影した、すばらしい画像を楽しみにしています!

Credit: Sam Rohn ( www.samrohn.com )

編集:平川

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