THETAで撮影した360度画像は、写真や動画そのものを見て楽しむことがほとんどですが、中には、360度画像を用いてクリエイティブな活動をされている方々もいらっしゃいます。そんなTHETAユーザーの一人が、球体写真家・電気造形作家の平地えりさんです。
平地さんは、球体オブジェにTHETAで撮影した360度写真を転写して、様々なアート作品を創造されています。アリス性症候群(Alice in Wonderland syndrome: AIWS)という、景色が歪んで見える症状と付き合いながら生活していく中で、THETAに出会い、現在の作品スタイルを確立してきました。本記事では平地さんに、THETAとの出会いや活用方法、2021年6月に開催された展示会の様子などを伺いました。
THETAとの出会いから作品作りに至るまで
―平地さんがTHETAに出会ったきっかけを教えてください。
これは、たまたまなのです。もともと他社製の一眼レフカメラを使っていたのですが、カメラを真っ直ぐに構えたつもりでも、真っ直ぐに撮れないことをもどかしく感じており、色々と調べていたら、THETAの情報に出会いました。THETA Sが出た頃(2016年頃)のことです。
購入して使ってみたら、予想した通りの感覚で使えて、これはすごいと思いました。普段は景色が真っ直ぐ見えることもあるのですが、アリス性症候群の発作が起きたときに突然景色がゆがむこともあります。初めて使ったときに、そんなときの景色も含めて、THETAで撮影した写真は自分が見ている世界に近いと感じました。現在は一眼レフを使わず、THETAのみ(THETA S, THETA V, THETA Z1の3台)を使用して活動しています。常日頃、THETAをカバンに入れて持ち歩いています。
―電子造形作家を始めるきっかけについて教えてください。
知り合いの写真家さんのグループ展を観に行った時に、たまたまギャラリーのオーナーさんがいらっしゃって、オーナーさんに「面白そうなものを持っていそうだから、何か作品を作って持っておいで!」と言われたのがきっかけです。元々そういうものを作りたいなというのが、頭にはあったのですが、その時をきっかけに形になりました。
平地さんの作品例。ボタンを押すとランプが点いて音が鳴る作りになっている。
―日頃、作品作りはどのように進められているのですか?
写真に関しては、その時の直感で撮影しています。「なんとなく撮りたいもの」は頭にあって、それをイメージして撮影しに行くのですが、基本的に撮影した写真はそこからずれます。日頃から撮影し貯めていた写真を使うときもありますし、目的を持って撮影しに行くこともあります。宛てのない冒険のような感じで、自転車に乗って出かけ、「ここでTHETAを使って撮ったら面白いのでは!?」というものを見つけたときに撮影しています。子供が遊んでいる公園の遊具の中で撮ってみたり、良い景色や面白い建物を撮ってみたり、色々実験しています。撮った写真は家に持ち帰ってから確認するため、どう映るかは家に帰ってからのお楽しみです。私の場合、通常は、写真から連想して作品を作ることが多いです。作品は難易度が高いものになると、ひと月から2~3ヶ月かかるものもあります。
球体の作品群
写真の内容 左上:伏見稲荷の鳥居, 左下:海遊館のクラゲ, 右上:京都の風景写真, 右下:夜の街
―日頃、撮影されるときはどんな設定を使われていますか?
THETA Z1の場合は、RAWもJPEGも両方使います。今日は枚数を多く撮る、というときはJPEGで撮りますが、枚数をたくさん撮らない日や色にこだわった写真を撮影したいときはRAWで撮ります。作品で使う写真は、多いときで1回あたり100枚くらい撮るときがあります。THETA Z1だと、あと何枚撮れるかが操作パネルで分かるため、助かっています。
露出設定は、AUTOの時もありますが、マイセッティングできるため、あえてISO感度をとても高くするなど、おかしな設定で登録して、その設定を使って撮影しています。すごく変なことをしているのですが、それがまたちょっと面白く撮れたりします。
「絶対それおかしな写真でしょ!」と思われるような設定の時もあります。真っ白すぎて何も映っていないこともありますが、場所によっては屋根の一部だけ撮れていたりして、それがすごく面白かったりします。
―電装系の配線などはご自分でやられているのですか?
はい、自分でやっています。独学で習得しました。
―すごいですね!球体に360度の写真を印刷するのもご自分でやられているのですか?
はい。どの部分を見せたいというのがあり、業者に頼むと指示が細かくなるため、自分で印刷作業をやっています。
方法は、水圧転写です。車の内装部分の木目調のものをプリントする技術と同じで、水に印刷したものを浮かせて、有機溶剤をスプレーで振って、そこに物を漬け、乾かします。
―作品は日本だけではなく、海外の展示会にも出展されているそうですが、どの国のどんな展示会に出展されているのでしょうか?
基本はアートフェアと言って、ギャラリーから出ている作品をお客様が購入される場所に出展しています。海外の場合はヨーロッパのアートフェアが多いです。オランダのアムステルダムやイギリスのロンドン、イタリアのミラノ、ミケランジェロ博物館などに出展したことがあります。オーナーが画家で色々な作家を育てているため、オーナーが出展する所に出展しています。
国内は所属する東大阪市のギャラリーの展示会と、他の都道府県で開催されるアートフェアに出展します。直近ですと、2021年11月に石川県金沢市のアートフェアに出展予定です。
―海外と国内で作品への反響は異なりますか?
違いますね。海外は「わぁっ!面白い!」というような反応をしてくださる方が多いですが、国内だと無反応な方と、「ん?」と驚かれる方が割と多いです。最近は国内も様々なタイプの作品を出す人が多いのですが、それらに反応する人と反応しない人が露骨に異なります。
銀座のビル街を映した球体オブジェ(色を反転させている)
―アリス性症候群の症状には、いつ頃気づかれたのでしょうか?
子供の時ですね。物心ついた時からずっとそれだったので…。アリス性症候群の症状は、子供の頃に誰もが経験するものらしいです。成長するにつれて症状が無くなるらしいのですが、私は無くなりませんでした。症状としては、目の前にいる人がすごく遠くに見えたり、とても近くに見えたり、人が巨大化して見えたり、歪んで見えたり、突然雷のようにピカッと光ったりということがあります。成長するにつれて完全になくなるということを聞いたときには驚きました。大人になって作品を作り始めてから、周りの方々との違いに気が付き、親しい人たちと話をする中で、大人になって無くなる症状であることを知りました。
症状が出るのは、多くて1日の中で20~30分くらいで、突然10分くらい続きます。私は2人くらいに、発作の時にはこう見えるというのをTHETAの画像を使って伝えたとき、「こんな風に見えていたの?THETAの写真で見せてくれたからやっと理解できた」と言われたことがあります。
普通に見えないからこそ、誰かにこうやって見えるというのを知らせたいときにはTHETAを使えるので、便利だと思います。また、一眼レフであれば通常真っ直ぐ撮るのに対し、THETAは真っ直ぐ見えてないときも、気にせず気軽に使って良い自由度があるため、勇気を持てます。
―THETAを作品作りにご使用いただいて感じている魅力などがありましたら、教えていただけますか?
小型というのは魅力の一つですよね。私は荷物を持ち歩くのが好きではないので、THETAの場合は、カバンの中にTHETA棒(THETA Stick)とTHETAを入れても軽くて良いです。一眼レフも良いのですが、持ち運ぶのは重いですよね。
それから、THETAはパッと取り出して、スマホに接続せず自由に撮って、何が撮れたかは後でのお楽しみというのがすごく楽しいです。ボタンも一つしかないですしね。あれがもう良いですよね(笑)。パッと押せる。作品の時はスマホで設定変更をするときもありますが、最近あえてそれをしないようにしています。してしまうと、どうしても一眼レフの時の癖でこだわってしまうので、それを抜きにして「いいじゃないかこれで!」ということにしています。とても明るく撮れたときに、周りが白くなる時があったりしますが、それがまたすごく面白く感じます。
ピロピロと音が鳴るサイレンマシーンが入ったマトリヨーシカ
写真の内容 左から 街の影, 晴れた日のビルの間の風景, 京都の裏路地, 伏見稲荷の鳥居,
足元が見える構造になっている観覧車, 夕方のビルの間の風景
今回実施された展示会について
―続いて、今回実施された展示会(Neja-ism〜ネジャ派、展、2021〜)について教えてください。
私が所属しているギャラリーのグループ展になります。コロナになってから展示は一切していなかったので、ギャラリーのオーナーがちょっとやってみようということになり、2021年6月25日(金)~27日(日)に、開催されました。
Neja-ism〜ネジャ派、展、2021〜: https://www.systemagallery.com/neja-ism-1/exhibition/
※日程が5月となっていますが、5月にアーティストのご親族向けに開催された展示会と同様のものが、6月に一般向けに開催されました。
コンテンポラリーな絵画や陶芸(マリオネットのような作品)、写真などが展示されていました。展示品の種類としては、絵の割合が大きかったです。10人以上は展示していたと思います。来場者数はコロナ禍もあり、結構少なかったと聞いています。
国内も海外も、コロナ禍になってから展示会はすべてキャンセルになっていたため、久し振り過ぎて緊張しました。作品を搬入する時間は決まっているのですが、展示するときに持っていくものを忘れそうだなと思い、何回も確認したのを覚えています。無事に開催出来て、とてもホッとしたのと、ようやく展示できるようになってすごく嬉しいなという気持ちがありました。
―何品くらい出展されましたか?どんな作品ですか?
今回は2点出展しました。両方ともスピーカーの作品です。ウォークマンなどにつなげて音を拡張させることができます。
展示会出展作品その1(黒い作品)
展示会出展作品その2(白い作品)
黒い作品が2021年、白い作品が2020年に作成したものです。音やリズムなどに連動して光ります。THETAの球体のところも光ります。
黒い作品の球体部分の写真は、レントゲンです。私、小指を骨折したんですよ。病院で見せてもらった自分のレントゲン写真を、先生に許可を得て、THETAで撮影しました。レントゲン写真にTHETAを近づけて撮りました。
白い作品の球体部分の写真は、ライブハウスの男子トイレの写真です。なんとなく、ちょっとカオスなものが良いと思っていて、絶対トイレでこんな写真を撮る人はいないよなという考えがあったため、撮影してみようと思いました。ライブハウスを貸し切って撮影しました。ガチャガチャしているトイレだったので、逆にカオスな感じで良いなと思いました。
展示会場に作品(黒い作品)が飾られている様子
展示会場に作品(白い作品)が飾られている様子
―作品に対するお客様からの反響はどうでしたか?
FacebookとInstagramに投稿していたので、それを見て個別にメッセージをくださる人がいました。「今回もやばい作品だね」とか「なんだよこれ」とか「面白い」とか「いつになくカオスな作品ですね」などのコメントがあり、面白いという人が多く、反響は悪くなかったのかなと思います。作品を欲しいという人も中にはいました。
―コロナ禍で準備されたと思いますが、何か苦労された点はありますか?
パーツの取り寄せです。国内にないパーツは海外から取り寄せるのですが、物流が止まっているところもあったりして、届くまでに1~2ヶ月かかるものもありました。送られてこなくてどうしようというのはありました。展示会までには何とか間に合いましたが、国内でも入荷待ちでいつ入ってくるかわからないというパーツがありました。コロナ禍で自粛中ということもあり、材料をネット通販で購入できるのは有り難いなと思いました。
黒い作品の電装部分
白い作品の電装部分
―今後の意気込みがあれば教えてください。
もちろん今後もTHETAを使って作品を作っていこうと思っています。今回、Instagramに載せた展示会の写真を気に入ってくれた海外の音楽家の人からふっと仕事が来て、改めてTHETAで撮影してよかったと思いました。写真だけで仕事が来たのは今回が初めてだったため、作品とは別でTHETAで撮影した写真提供などもできたらと思っています。
これからも、一眼レフにこだわらずに、もっと360度カメラを楽しもう!と思っています。こんなに面白い写真を撮れるので、使わないのはもったいないと思いますし、私はTHETAでもっとうまく撮れるようになりたいなと思います。作品に関しては、世界で有名になりたいというのは一応あります。その時に「カメラは何を使っているのですか?」と聞かれたときに、「THETAです!」と言いたいです。
―これから更に素敵な作品を沢山を創作していってくださいね!本日はありがとうございました。
写真家・電気造形作家 平地えり (ERI HIRACHI)
Webサイト: http://www.erihirachi.net/
Instagram: @erii6 (https://www.instagram.com/erii6/?hl=ja)
YouTube: https://www.youtube.com/channel/UC1ZLLvlwcSIN9qeOxMI2HnQ