映像制作の世界は、さまざまな新しい技術によって、近年大きな進化を遂げています。今回は、映像制作業界のなかでも、特に360度カメラによる映像制作に注力している、アメリカで活躍しているクリエイター Hugh Houさんにお話をお伺いしました。
デジタルメディア会社CreatorUpを設立し、YouTubeチャンネルの運営や、AdobeMaxやCESなどの世界的にも有名な展示会で講演をしてきたHughさん。360度カメラを使用したVR映像制作へのこだわりや、彼がTHETAをどのように使用しているか、伺います。
360度カメラについて
Hughさんが360度カメラを使い始めたきっかけと、VR映像制作に力を入れている理由を教えてください。
2016年に音楽イベントやお祭りを動画で撮影しようとしたことが、360度カメラを使い始めたきっかけでした。僕の初めての360度カメラはTHETA Vですが、他にも色々な360度カメラを使っています。それまでは通常のビデオカメラで音楽イベントの動画や静止画を撮影していたのですが、360度カメラを使うことで、そのイベントをよりリアルに視聴者に体感してもらえると思ったのです。
360度の映像制作に注力しているのは、VR動画が視聴者にとって、より没入感のある体験だと思っているからです。実際、自分が360度カメラで撮影した音楽関連の動画のいくつかは、YouTube上で400万回再生を超えているんですよ。
360度動画と360度静止画の、撮影ワークフローにおける大きな違いは何でしょうか?
360度動画の撮影は、360度静止画と比べて撮影・編集のテクニックが必要になります。まず、ベースとなる映像制作の技術を理解しないといけません。さらに360度動画は、画像を綺麗に繋ぎ合わせるためのスティッチングと編集の作業が、静止画に比べて高度になります。プロがVR動画を制作する場合は、映像を360度により綺麗につなぎ合わせるため、MistikaVRなどの市販の編集用ソフトウェアが必要とされています。
屋外で360度静止画の撮影する場合のテクニックを教えてください。
THETAで静止画を撮影する場合は、いつもHDR合成モードで撮影しています。動画にはHDR機能が無いので、その点は大きな違いでしょう。
THETA Z1 RAW-手持ちHDRで撮影・現像
こちらの画像、わんちゃんも綺麗に映っていてとてもかわいいですね。ペットと一緒にTHETAで撮影するときに気を付けていることなどはありますか?
上の画像は、THETA Z1に新しく搭載されたRAWの手持ちHDRモードを使用して撮影・現像しています。撮影する場所に犬を連れてきて、THETA Z1を可能な限り犬に近付けて撮影します。お菓子を投げて犬をカメラの近づかせることもありますね(笑)。一点だけ、犬がレンズのつなぎ目(THETA側面)に映り込まないようにしています。
THETA Z1のRAW・HDR合成モードについて
THTA Z1のファームウェアアップデートによって対応された、新しいRAW -HDR合成モードはどう役立っていますか?
以前は、THETA Z1のRAWでHDR撮影を行いたい時、DualFisheye プラグインを使ってHDR-DNG撮影を行うか、ブラケット機能を使い、複数枚の露出を変えたDNGファイルを自分でHDR合成処理していました。前者のDual Fisheye プラグインの撮影を行う際、本体からの操作だけでなく、専用のリモートアプリ(DualFisheye Plugin Remote)を使うことで、リモートでシャッターを切ることもできます。ただ、そのアプリはAndroid用しかなく、自分はiOSユーザーのためいつもTHETA Z1本体上で設定できる10秒セルフタイマーを活用していました。
ところが、THETA Z1が新しくファームアップしたことで、DualFisheyeプラグインでの撮影に近い、RAW+HDRオプションの設定が、THETAアプリ上でできるようになりました。もちろんTHETAアプリはiOSで使えるので、THETAアプリからRAW+HDRの撮影をリモートでシャッターを切ることができます。また、撮影前にスマホのTHETAアプリのライブビュー画面で事前に画像を確認できるので、いまだ!というときにタイミングよくシャッターを押すことができるんです。
こちらはRAW-HDRを使用して、カリフォルニアのラグーナビーチで撮影・現像したものです。
もちろん、DualFisheyeプラグインを使うことで、さらにダイナミックレンジの広い画像が撮影できるので、THETA Z1本体のセルフタイマー10秒起動による撮影しかできなくても、DualFisheyeプラグインは、引き続き自分のお気に入りです。
また、THETA Z1のRAW撮影時はHDR合成だけでなく、被写体の動きやブレに強い「手持ちHDR」を設定することもできます。手持ちHDRは三脚でTHETAを固定する必要がなく、一脚や手持ちで素早く撮影できるんです。日常をさっと撮影したいシーンでは、THETA Z1の手持ちHDR機能を活用しています。特に早い動きのあるような状況では便利ですよ。
こちらはSuper Bowlが開催されるNFLの新しいSoFiスタジアム前で、RAW-手持ちHDRを使用して撮影・現像したものです。
DualFisheyeプラグインについて
DualFisheyeプラグインは、どのように活用していますか?
THETA Z1で撮影する際は、Dual Fisheye プラグインをよく活用し、ほとんどが9枚合成のRAW-HDR撮影を使用しています。上でご紹介した、プラグインを使わないRAW-HDR撮影とは、シーンに合わせて使い分けています。RAW-手持ちHDRモードは、特に屋外でTHETAを固定しないで撮影するシーンで使用しています。実際のTHETA Z1のDualFisheyeプラグインを使用した撮影・現像のワークフロー詳細は、こちらの動画で紹介しているので、気になる方はぜひ見てみてくださいね。
ダイナミックレンジの広いRAW-HDRの撮影ができるDualFisheyeプラグインは、とても強力なツールで、私がTHETA Z1を愛用している理由でもあります。ただ、この機能で撮影した画像の強みを最大限発揮するためには、上の動画で紹介したように、Adobe Lightroom Classicを使って、正しい色味調整などの現像ワークフローを行う必要があります。
360度カメラや作品への反響について
Hughさんは色々な場所で360度映像の情報を発信されていますが、視聴者からはどのような反響がありますか?特にCESなどの展示会やご自身のメディアでの反応について教えてください。
360度画像に気が付いた人の多くは、気に入ってくれていると思います。あまり興味を示していない人は、360度画像の良さをまだ知らないだけだと思います。360度カメラはまわりの取り囲む環境をすべて映すことができ、それは通常のカメラではできないことです。
Facebookに360度画像を投稿すると、周りからの注目度が高いことを感じます。通常の写真と比べて、かなり高いリアクションがあるんです。僕のFacebookページで注目度の高さを確認できますよ!私は毎年アメリカで開催される、CESとNABといった最新テクノロジーの展示会に参加してそこで紹介される360度の最新技術の様子も見ています。また、AdobeMaxでも360度の映像制作についてプレゼンをしたこともありますが、たくさんの人が参加しており、関心度の高い領域だと実感しています。
この360度の映像制作での経験を通してHughさんが感じたことや、読んでいる方に伝えたいメッセージはありますか?
360度映像制作においては、撮影場所を選ぶことが一番重要な要素だと思います。私のお気に入りのスポットは東京、カリフォルニアのマリブやカタリナ島、タホ湖です。これからもクリエイティブな活動を続け、360度映像を撮影する機会を設け、スキルを磨き、そして360度映像の制作に最適な場所を常に探していきたいと思っています。
Hughさん、貴重なお話しありがとうございました。今後も素敵な作品、楽しみにしております!
Credit: Hugh Hou