今、ヘルスケア・メディカルの現場に360度の映像が求められている。

これまでの写真と映像だけでは伝わらない現場の情報とは…?医療画像解析、XR (VR/AR/MR), メタバースを活用した手術支援システムを開発するベンチャーを起業し、医療デジタルテクノロジーの最先端を走り続けている外科医の杉本真樹氏に事例を伺った。

杉本真樹氏は、医師/医学博士であり、医療の業界に技術革新をもたらそうと奔走する日本の医療を代表するイノベーターだ。


「医療を解放して、命の可能性を広げる」というビジョンの元、「身体・病態・診療を空間で捉え、医療を進歩させる」というミッションを掲げスタートアップ企業Holoeyes株式会社を創業し、代表取締役CEOを務める。
医療メタバース活用をはじめ、画像解析、XR (Extended reality):仮想現実(VR)/拡張現実(AR)/複合現実(MR)、手術ナビゲーションシステム、3Dプリンターによる生体質感造形、遠隔医療、オンライン診療、医療医学教育といった分野で先端技術の開発を行っている。2014年Apple社「世界を変え続けるイノベーター30名」に選出された。

なぜ、メディカル・ヘルスケアの現場に360度の映像が求められているのか。

−杉本様は医療現場におけるVRの先端技術開発を行っており、その中でも360度映像を積極的にご活用頂いております。今なぜ、メディカル・ヘルスケアの現場に360度映像が必要とされ、どのような用途で活用されているのでしょうか?

360度映像の利点は、高解像度で臨場感を持って一度に現場全体を共有できることです。
私は特に医療教育と遠隔医療の2つの用途で、今後活用が広がっていくと考えています。

医療教育での活用

−実際に杉本様が取り組まれている、360度映像を活用した先進的事例について教えてください。

まず医療教育では、360度映像を教育コンテンツとして活用できると考えています。
最近は新型コロナの影響で手術室に入れる人数が制限されており、現場の医療従事者はコロナの緊急事態対応のため業務に追われ、学ぶ機会が相対的に少なくなっています。また学生や看護師へもオン・ザ・ジョブトレーニングだけではなく空間と時間を再現した教育が必要です。

このような状況下で、例えば手術を360度で撮影しておくと手術室内にいる医師・助手の動きや麻酔の位置、効率的な機器の入れ替え、メスの動きなど、現場にいなければ体験できないことを映像を通して学ぶことができるようになります。

360度画像 ミライズクリニック南青山(https://mirise-ortho.com/

すでに教育用にVR映像コンテンツを撮影・提供する事業会社もあり、今後ますます医療教育でのVR活用は広がっていくと考えています。

実際に私も手術室全体の動線や機器の配置などを俯瞰できるように、360度カメラで撮影しコンテンツとして活用しています。手術室看護師や臨床工学技士(ME)など人物の動線や、手術機器の搬入出、配置を全体的に俯瞰し、把握できました。また機材がコンパクトなため天井に吊るすことで上から見下ろしたような映像も簡単に撮影でき、術者視線の臨場感のある映像になります。特にRICOH THETA Z1は高解像度で明るい画像が撮影できる点が良いです。

そのほか、コンテンツは作業のタイミングを見て学習に使えますし、遠隔手術時にVR技術を使い、まるでリアルな手術室に入ったようにも利用できます。

遠隔医療での活用

最近は映像ストリーミングを用いた遠隔診療・医療に注目が集まっており、現場の状況共有に360度映像が活用できると考えています。

実際に、ロボット遠隔手術を行う際に、手術室でRICOH THETA Z1を使用しました。

ロボット手術の執刀医は患者から少し離れた場所でロボットアームを遠隔操作します。遠隔手術では患者の傍にいる助手とのスムーズな連携操作が重要になります。THETAで撮影した360度映像をストリーミング共有することで、お互いが動きを把握でき連携が円滑になりました。




photo ©︎Maki Sugimoto. Holoeyes 2022 JAPAN

360度映像活用の今後

−医療教育、遠隔医療と先進的な活用についてご紹介いただきましたが、
日々の現場業務でも360度映像は活用できるでしょうか?

360度映像は、施設紹介やヘルスケアの領域でも十分に活用の可能性があると思います。

例えば、患者は馴染みのない医療施設を訪れるとき、入院先が変わるときなど未知の場所に行かなくてはならないときに心理的なストレスを感じます。事前に、医療施設や移転先の部屋を360映像で見確認できることで、安心して訪問できるようになりメンタルケアに繋がります。

実際に病院での撮影事例を紹介いたします。

バーチャルツアー ミライズクリニック南青山(https://mirise-ortho.com/

昨今では、ワクチン接種会場などで予防接種者やボランティア、医療関係者が数千人単位で集まっている会場の導線把握が必要となるケースが多々あります。360度画像は、中小規模の部屋のみの利用ではなく、全体像や人の動きを把握する目的での活用も進んでいくと考えます。

新たな360度映像の可能性:THETA Xとメタバース

メディカル・ヘルスケア領域での360度画像の活用共有には課題があることも事実です。

医療関係者には360度カメラの認知度が低く、使用している人は殆どいません。手術室には医療機器として認められたものしか持ち込んではダメだと思っている医療者が多く、新しい技術や取り組みが前進しにくい状況もあります。

また医療現場の臨場感を再現するには、さらなる360度画像の高解像度化、高精細化が重要です。最新機種の「RICOH THETA X」は、CMOSイメージセンサーをはじめ、プロセッサー、レンズ設計が刷新され、高解像度,高精細な、最大5.7Kの動画、11K静止画の360度撮影が可能です。2.25型の大型LCDタッチパネルが搭載され、本体のみでライブビューができます。発売前に試用させていただき、実際に手術室で使用し、操作もわかりやすく、設定も簡単で、初めて触った時からすぐに直感的な使用ができました。THETA Xは静止画の解像度が11Kまで改善、HDR撮影も標準化され、手術室や病院内のような明暗差の激しい場所でも鮮明な画像が記録できました。動画の解像度も最高5.7Kに向上し、4Kよりも格段の高画質です。また4K@60fpsの滑らかな撮影もでき、VRヘッドセットで閲覧する際にとても快適でした。撮影中リアルタイムに天頂補正やスティッチがされ、撮影後にそのままYouTubeなどの360度のVR動画で公開できたので、学会や研究会、講演会などでも多くの医療者に広く情報を共有できました。

RICOH THETA Xで撮影  photo ©︎Maki Sugimoto. Holoeyes 2022 JAPAN

医療教育や遠隔医療では、すでに360度映像への活用ニーズをたくさん聞いています。いくつかの施設では独自の活用事例も生まれてきています。360度映像は空間を作り出し、平面的な視覚情報を新しい体験に変えてくれます。今話題のメタバース(オンライン上の仮想空間)でも背景として利用され、コロナ禍のリモート環境では難しかった、体験そのものを共有するという、医療の新しい常態「ニューノーマル」と言えます。このような活用が広がることで、医療現場と遠隔地や一般社会が繋がり、医療格差や情報の非対称性が改善すると期待しています。

※360度画像をメタバースの背景に活用



photo ©︎Maki Sugimoto. Holoeyes 2022 JAPAN

ありがとうございました。杉本様の医療イノベーターとしてのますますのご活躍に期待しております。

杉本真樹 医師・医学博士
帝京大学冲永総合研究所 Innovation Lab 教授
Holoeyes株式会社 代表取締役CEO 共同創業者

1996年帝京大学医学部卒。帝京大学 肝胆膵外科、国立病院東京医療センター外科、米国カリフォルニア州退役軍人局Palo Alto病院 客員フェロー、神戸大学大学院消化器内科 特務准教授、国際医療福祉大学大学院准教授を経て現職。
医用画像解析、XR (VR/AR/MR)、メタバース、手術支援、低侵襲手術、手術ロボット、3Dプリンタ臓器モデルなど、最先端医療技術の研究開発と医工産学官連携に従事。医療関連産業の集積による経済活性化、科学教育、若手人材育成を精力的に行っている。2016年Holoeyes株式会社を創業し、医用画像解析ワークステーション医療機器Holoeyes MDを開発、上市した。 Microsoft Innovation Award、Health 2.0 Outstanding Leadership Awardなど受賞多数。2014年、Appleより世界を変え続けるInnovator 30名に選出。2019年、帝京大学冲永総合研究所教授としてInnovation Labを創設し、医工産学連携や起業支援教育を行っている。

日本外科学会 専門医・認定登録医
日本消化器内視鏡学会 専門医
日本内視鏡外科学会 技術認定取得者

東京医科歯科大学 客員准教授
東京歯科大学 客員准教授
東京医療保健大学 総合研究所 客員教授
東京大学 先端科学技術研究センター 客員研究員

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