RICOH THETA Xは、RICOH THETAシリーズとして初めて、本体内蔵のGPS機能が搭載されたモデルです。
これまでのTHETAでは、スマートフォンのTHETAアプリを経由して取得していた位置情報を、THETA Xでは本体単体で取得可能になりました。
360°カメラの撮影で、手軽に正確な位置情報が取得できるようになることで、一体どんなポテンシャルが広がるのか。
青山学院大学 古橋教授
誰もが位置情報と画像を取得できるデバイスを使い、空間情報の恩恵を受け、それを利活用できる世の中を目指す。今回は「一億総伊能化」をテーマとして、地図に関わる様々な取り組みをされている青山学院大学の古橋大地教授に、THETA Xをお使い頂きながらお話を伺いました。
360°画像と位置情報
古橋さんが掲げている「一億総伊能化」とは、どういったテーマなのでしょうか?
「一億総伊能化」は、私の研究室のキャッチコピーです。現在、約一億人の日本人と、そして約80億人の世界中の人々が、スマートフォンやドローンなど、GPSが搭載されたデバイスを簡単に使うことができる世の中になりました。これは、誰でもどこでも、「測位できる」ということです。つまり、誰でも伊能忠敬(※1)になることができるのです。
※1 江戸時代に17年をかけて日本全国を測量し、日本全土の地図を完成させた地理学者・測量家。
現在は、主にMapillaryを使って各地の地図情報を作る活動や、都市の地図情報をデジタル化していく構想などに向けた活動を行いながら、マップコンシェルジュという地図コンサルティングの会社も経営しています。
360°カメラで「測位できる」ことの重要性を教えてください。
位置が特定できることで、「ここ」という位置情報を、第三者に正確に伝えることができます。また、それに加えて360°カメラの場合は、「”ここ”で“こういう景色”がある」という、位置情報付きの360°景色をすべて伝えることができるのです。今回THETA Xに内蔵GPSが搭載され、従来のTHETAよりも更に手軽に、より正確な位置情報付きの360°画像を撮影できるようになったことで、今後THETAは、より業務目的での活用が広がっていくだろうと考えています。
THETA Xで撮影したMapillary
「内蔵GPS」だからこそのメリットはありますか?
従来のTHETAはスマホと接続し、スマホのTHETAアプリ経由で位置情報を取得する必要がありました。ただその際、接続のトラブルがあったり、位置情報がずれていたことが多々あり、あまり精度の高い位置情報としては活用できていませんでした。そのためTHETAを使う場合は、他のデバイスで取得した位置情報と、THETAで撮影した360°画像を合わせる作業を行っていました。
THETA XのようにGPSが内蔵されている360°カメラを活用することで、その作業量が圧倒的に変わり、より効率的に画像データを扱うことができる点がメリットです。
THETA Xのご感想
古橋さんは、初代のTHETAから色々なモデルをお使い頂いていますが、THETA Xを使ってみたご感想はいかがでしょうか?
位置情報の取得を重視する自分にとって、THETA Xは歴代のTHETAの中でも想像以上に良いモデルでした。欲しかった機能がすべて搭載されているモデルです。THETAもついにここまできたか、というのが私の正直な印象です。
THETA Xでは、今までのTHETAにあった弱点が色々と改善されていました。例えば、バッテリー交換やSDカードが対応になり、撮影時に充電やデータ容量を気にする必要がなくなりました。
また、USB-Cのケーブル差込口が、本体底面ではなく本体の横側面についたことで、三脚に設置する際、ケーブルと三脚が干渉せずにバッテリー給電し続けることができる点も、ポイントだと思います。
私のような地図サービスに画像をアップする人たちにとっては、給電し続けながらの長時間撮影が必要になります。THETA Xは構造的に今までのモデルと大きく変わり、効率よく撮影を行うことができるようになりました。
また、内蔵GPSが搭載されたことで、もう少しサイズが大きくなっているのかと想像していましたが、思ったほど大きくなく、従来機種とサイズが変わらないことにも驚きました。
THETA XのGPS精度のターゲットは、5メートル以内を目指しています。古橋先生のご活動では、GPS精度はどの程度を求めていらっしゃいますか?
ベストは2-3メートル程度の誤差、または、10メートル未満ぐらいの誤差であれば、実使用上許容範囲内です。THETA Xのように、5メートル以内の誤差が実力値であれば、問題ない精度です。THETA Xを実際に使ってみて試したところ、普通に歩きながら撮影する分には、ほぼ問題ないGPS精度と感じました。
THETA Xで撮影したMapillary
THETAに初めて搭載されたA-GPS(※2)の機能も、ご活用頂けましたでしょうか?
A- GPSは、あるととても便利な機能です。インターネット経由で事前に位置の補助情報が付与されるため、電源立ち上げから早いタイミングで、より正確性の高い位置情報を取得できるようになるためです。
(※2)A-GPSとは、ネットワークを補助的に利用し、位置情報を得るGPS技術。測位にかかる時間を短くできる。THETA Xでは、クライアントモードで無線LANと直接接続することで、A-GPSが取得可能。
いつも、どのように地図データで使う360度画像を撮影されているのでしょうか?
通常、6秒のインターバル撮影を行っています。今度ファームアップで対応される、8K10fpsの動画モードも、ぜひ活用したいと考えています。CaMMという位置情報データが1秒に1回づつ付いており、尚且つ8Kの画像を1秒間に10フレーム(10枚)と高速に撮影できるこのモードは、地図データにも活用できるのではないかと考えています。
THETA Xへの期待
THETA Xに対する、古橋さんの今後の期待をお聞かせください。
本体に大型操作部が付いたことで、プラグインを自分でも作ってみたくなる機種になりました。例えば、自分自身が活用しているMapillaryに、THETA本体から直接画像をアップできるような専用プラグイン等もあると、便利そうだなと思っています。実際に、そういうプラグインを作れないか、仲間たちと検討しています。
THETA Xのプラグインの拡張性は、ぜひ3rd partyの開発者の皆様に、ご活用頂きたいポイントです。他にも、内蔵GPSが搭載されたことによる、活用の広がりもイメージされますか?
360°画像に、手軽に精度の高い位置情報が付くようになると、色々なビジネス面での活用が期待できるのではないでしょうか。例えば、保険会社で証拠の画像を撮るときに、THETA Xで撮影すれば、さっと手軽に位置情報も付いた現場の証拠写真を撮ることができるようになるでしょう。
また、私が現在取り組んでいることのひとつが「デジタルツイン」というキーワードです。都市をデジタル化することで、PC上で「街をこう変えていきたい」という形に自由に変えていくことができ、それを現実世界に活かしていくことができるようになります。そのためには、まず都市を三次元でデジタル化することが必要です。
「デジタルツイン」という言葉は、最近よく聞かれるようになりましたね。
都市の三次元デジタル化のために必要なのは、LiDAR(※3)など光を使って物体の距離や方向を測定する技術と、またそこに景色としての画像を加える360°カメラの技術と考えます。
※3 LiDARとは、リモートセンシング技術のひとつで、光を使って離れた物体の距離や方向を測定する技術、またその技術を使った装置のこと。
今でも、赤外線を搭載して距離を測ることができる360°のカメラは存在していますが、値段が非常に高額で、そしてサイズが大きいという難点があります。THETAはワンショットで持ち運びができるサイズ感、且つTHETA Xは内蔵GPSが搭載されたということで、画像だけでなく位置情報を活用して、都市の三次元デジタル化に活かすことができるようになれば、と期待しています。
例えば、大まかにラフでも良いので、THETA Xを持って歩くだけで、簡単なフォトグラメトリ―(※4)ができたりするようなプラグインが登場したりすると、いいですね。
※4 被写体をさまざまなアングルから撮影し、そのデジタル画像を解析、統合して立体的な3DCGモデルを作成する手法
ありがとうございます!THETA Xが世界中のマップサービスの撮影をされる方々や、色々な業種のサービスに活用されることを、期待したいと思います。
古橋教授HP:https://medium.com/furuhashilab
編集:平川
撮影:大原