360度の画像を活用した「業界横断型プラットフォームサービス」RICOH360。
360度の画像データを活用したビジネス向けサービスをけん引してきた稲葉章朗にサービス展開で得た経験とプラットフォームビジネスへの思いについて聞いた。


稲葉章朗
2008年にリコー入社。
2020年よりRICOH360事業開発責任者。
楽しみは、息子と一緒にラグビーの練習や観戦をする事。

多くの人にとってなくてはならないものを提供したい

リコーの自由業枠で入社

2008年にリコーに入社。当時、リコーでは何をやってもよいという趣旨の「自由業」という職種があり、そこに採用された。最初は沼津にあるサーマルメディアの事業部で1年間営業を経験した。沼津は、偶然にも祖父が従業員数2000人規模のお菓子メーカーを経営していた土地でもあった。
大学は経済学を専攻し、戦後ものづくり大国の日本を研究テーマに選んだ。ものづくりにもともと興味があり、「新しいものを生み出したい、クリエイティブなことをしたい」という思いが強くあった。その後、新規事業開発の部署に異動となり、そこで新しい技術を使った製造業向けのシステムを大手メーカーに提案・販売する仕事に携わった。

360度の世界へ。多くの人にとってなくてはならないものを提供したい

取り組んでいた製造業向けシステムのプロジェクトを縮小することになり、当時の360度カメラの部署へ異動。当時から、THETAやカメラの画像をプラットフォームに取り込み、活用する構想があり、そのコンセプトに共感した。
一方、手がけていた製造業向けシステムのプロジェクトでは、お客様のニーズに応えながら、信頼関係も構築できてきていたので、お客様に申し訳ない気持ちになった。そして、お客様に本当に必要なものなら、やめることにはならなかったと気づくことにもなった。
多くの人にとってなくてはならないものでなければ、事業を継続できない。結局、お客様にも迷惑をかけることになる。この思いは今もずっと持ち続け、自分の根底にある。

不動産向けサービス THETA 360.biz

当時は、RICOH THETAが事業の中心である中、プラットフォーム構想につながる不動産向けの360度画像を用いたサービスを数人で始めるところだった。
このサービスは、THETA360.bizといい、物件の室内を360度カメラで撮影した画像でバーチャルに内見ができるサービスである。
他社との差別化に関心を持つ不動産大手ポータルサイトが顧客となった。
360度でその場所に行かなくても室内を見られるという価値は、競合との競争の激しい不動産業界に次々と広がっていった。ポータルサイトを持つ会社を業界横断で攻略したり、不動産の中でも競合とポータル会社を奪い合ったりするような状況で、自身の営業力の手ごたえを感じられる時期だった。営業を通じて得た、お客様の声や市場の理解を踏まえ、課金体系や提供形態を変えていった。
市場を学びつつ気づいたのは、ポータルを運営する会社の数は限りがあり、多くの人にとってなくてはならない価値を届けるためには、アプローチを変えるべきではないか、ということだった。

SaaSビジネスへの転換

より多くのお客様に価値を届けるために、中小企業や個人のお客様へも積極的にユーザになっていただくよう、外部のパートナー会社と連携し、顧客獲得のプロセスを変えた。
Webで興味を持つお客様を見つけ、無料で製品をトライアルしてもらい、価値を確認した上で契約してもらう。継続的に画像処理を使った新しい機能を提供する。これらによって、お客様に継続的に使っていただくサービスとなり、結果としてリコーの中では早くからSaaSビジネスを作り上げることができた。

サービスの展開を通して気づいたのは、実際にお客様に販売して使っていただくことで、業界やお客様のニーズをリアルに学ぶことができること。
営業として売り込むだけでなく、売り込みながらお客様の声をためておくこと、そして集約した上で、より多くのお客様が求めている価値につながるインサイトを得ること、それらを踏まえ製品サービスをよくする意識を持ち続けること、これらが重要だと考える。

グローバルサービスへのチャレンジ

2019年には、THETA 360.bizは国内の不動産大手との提携も順調に進み、蓄積した360度画像を活用した機能の提供も始めることができ、事業として盛り上がっていた。
ただ、リコーの事業としては、日本だけでは終われないという認識があった。
アメリカを中心にグローバルでのサービス展開を行なった。サービス自体は日本で開発したものではなく、アメリカで開発したものを展開。メイン市場がアメリカなので、現地のアメリカ発のものが良いと考えた。
現在はアメリカを中心に、数百の国で使われるサービスになった。

日本発のプラットフォーマーを目指して

建設業界へのアプローチ

RICOH THETAが建設業のお客様にも多く購入されていること、THETA 360.bizのお客様の約30%が建設業のお客様であることから、建設業にチャンスがあると考えた。
建設業界はGDPも大きく、IT投資が増えてもいるが、ものづくりをする人が高齢化したり、建設資材が高騰したり、過重労働といった深刻な課題が多いことが分かった。
このままではいよいよ、ものが作れなくなってしまう。
自分の中の一つの義務、信念として、われわれの360度の力でこの業界の課題を解決できないか。
しかし、過去に製造業のお客様を担当した経験から、業務を深く理解することと業務に適応したものを提供することが必要なのはわかっていたので、生半可な気持ちではできないなと思った。

RICOH360とパートナー企業

早く多くの人に価値を提供するには、その業界に強いパートナーと連携すべきだと考えた。建設は広いマーケットなので、プラットフォームとしてパートナーと組むほうが良い。    
餅は餅屋に任せて、得意な部分で連携しあうほうがよい。
今では360度に想いのあるパートナー企業の方がかなり多く関心を持ってくれ、動き始めている。360度でイノベーションを起こそうという企業と一緒に活動し、そこでドライブをかけられれば、パートナー企業のユーザに浸透し、さらにそれ以外のユーザにも360度の価値は浸透していくと考えている。

日本発のプラットフォーマーへ

プラットフォームといえば、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)がまず思い浮かぶが、我々はRICOH360でハードとサービスを組み合わせた日本発のプラットフォーマーになれるのではないか。
特にビジネスのお客様へ価値提供してきたリコーには、B2B領域で一日の長があるはず。
RICOH360がビジネスとして体現すれば、リコーだけでなく日本企業の目指すロールモデルになれると、やりがいを感じている。

サイドバナー