360°カメラRICOH THETAは、その場の空間を360°撮影するだけでなく、CG業界でも活用されていることをご存じでしたか?CGやVFX業界では、よりリアルなCG空間を制作するために使われる「HDRI( High Dynamic Range Images )」という広範囲の輝度情報を記録できるデータを、360°で手軽に取得する目的として、THETAが世界中で活用されています。
今回は、フォトグラメトリーやHDRI 関連情報交換のためのFB Group(Photogrammetory FB Group, HDRI for Image Based Lighting FB Group)の管理人をされている3D Scanning ExpertのVladlen Eriumさんに、以前からお使いのTHETA Z1と、THETA Xをお試し頂きながら、HDRIデータ用途で使う際の両機種の特徴についてお話を伺いました。
また、5月にリリースしたばかりの、THETA Z1専用のHDRIプラグインについてもご紹介します!
Vladlen さんとお使いの THETA Z1
3D ScanningとTHETAの活用について
Vladlenさんは現在、3DCGやフォトグラメトリ―を扱う業界で、3D Scanning Expertとして活躍されていらっしゃいますが、どのような背景で、現在のお仕事に携わるようになったのでしょうか?
母がコンピューターがそこまで普及していなかった時代にグラフィックデザインの仕事をしていた関係で、子供の頃からコンピューターグラフィックに興味を持ち、大学でもその分野を学んでいました。最初に就いた仕事は、広告業界の2D/3Dグラフィックデザイン系の仕事です。
日本では、UIデザインやゲーム業界などで、2D/3Dグラフィックに関する仕事をしていました。その後、徐々に3Dスキャニングやフォトグラメトリ―を専門とした仕事に携わるようになりました。
日本にはたくさん面白い物体があり、気になった物体があると、趣味でも3Dスキャニングしています。
物体の「3Dスキャニング」とは、実際にどのような作業なのでしょうか?
スキャニングしたい物体の周りを撮影しながらデータを取得し、それを3Dデータに落とし込んで3D化しています。物体をよりリアルに正しい立体感で3Dにスキャニングするためには、その物体を中心に、各方向から1,000枚以上データを撮影することもあります。
例えばこれは、神社の狛犬をスキャニングしたデータです。これは特に凹凸が多い物体だったため、凹凸に併せてすべての角度から撮影を行いました。
3Dスキャニングの際、THETAはどのように活用されているのでしょうか?
制作したCG上の3Dの物体を、陰影など光の当たり具合も含めて、よりリアルに完成度高くするため、HDRIと呼ばれる、広範囲の輝度情報を記録できるデータを使っています。通常は、一眼レフを使っており、その場合、周囲4方向と上下含めた6方向以上で、それぞれ複数枚のマルチブラケット撮影を行い、それを360°に繋ぎ合わせてHDRIを生成しています。
THETAを初めて知ったきっかけは、職場の人がガジェット好きで、アクティビティの撮影目的でTHETA VとTHETA Z1を使っていたためです。同僚たちの間で、THETAをHDRI撮影にも使えるのではないか?という話になり、現在ではCGの仕事におけるHDRI撮影の用途でも、THETA Z1を使っています。
どのようなケースで、THETA Z1を使っているのでしょうか?
クオリティの高いHDRIを撮影するためには、一眼レフの方が適しています。ただ、CGの制作・撮影チームは現場でとても忙しく、時間がありません。
そういうケースでは、職場のメンバーもTHETA Z1を活用しています。
一眼レフで撮影する場合は、6方向から複数枚のブラケットを撮影するため、良い品質のHDRIデータが撮れる反面、撮影や処理にとても時間がかかります。また、機材も重くて持ち運びが大変です。
一方、THETA Z1の場合は1度で360°の撮影ができるため、一眼レフと比較して2-3分の1に撮影時間が短縮されます。
THETA XをHDRIで使ってみて
今回、新商品 THETA Xもお試し頂きましたが、THETA XをHDRI撮影目的で試してみたご感想をお聞かせください。
THETA XはJEPGにしか対応していませんが、13種類のブラケットを、瞬時に連写で撮影することができ、マルチブラケット撮影がとても速いのに驚きました。また、本体に大型操作部があり、簡単に撮影設定できることも便利でした。
Vladlenさんと THETA X
THETA Xは、連写機能をRICOH THETAシリーズで初めて標準搭載しました。「連写」モードだけでなく、マルチブラケット撮影もその連写機能を活用することができるのも特徴です。
THETA Xで撮影したマルチブラケット
もちろんクオリティも大切ですが、瞬時にマルチブラケット撮影できるような「時間」も、CGクリエイターにとってはとても重要です。
THETA Xのマルチブラケットを合成したHDRIデータ
例えば、車や人が通るような場所など、限られた時間の中ですぐに撮影しなければいけないことも多々あります。
THETA XのHDRIデータを使った3D CG
THETA Z1はRAW対応しているため、クオリティを求める場合はTHETA Z1が良いと思いますが、マニュアルでブラケット撮影設定した場合、連写機能がない点が自分的には少しネックでした。
THETA XのHDRIデータを使った3D CG
色々なシーンで、THETA XのHDRI撮影をトライして頂いたようですね。
THETA Xを使い始めてから、もう100以上のHDRIをテストで撮影し、作ってみました。例えば、地下鉄や街中など、人が多いようなシーンでも、THETA Xの場合は瞬時に360°のマルチブラケット撮影することができます。時間を気にせず、簡単に撮影できる点が気に入っています。
一点気になっているのは、標準では360°状態になった画像データのみしか取り出せないことです。より精度の高いスティッチ処理(360°につなぎ合わせる処理)をするために、自分自身でTHETA XのWEB APIを操作し、DualFisheye状の元データとして撮影しています。その画像データを、PT Guiでスティッチ処理して使っています。
もちろん、そこまで気にしない場合は、THETA Xで撮影した通常の360°データをHDRIに活用することでも良いと思います。
THETA XとTHETA Z1は、HDRI目的として、どのような使い分けがおすすめですか?
良いクオリティを目指す場合は、一眼レフやTHETA Z1の方が良いでしょう。
THETA Xで撮影したマルチブラケット
ただ、HDRIに適した魅力的なシーンを見つけて、瞬時に撮影したいときは、THETA Xが簡単で素早く撮影できるので、便利なのではないでしょうか。
THETA Xのマルチブラケットを合成したHDRIデータ
Both THETA Z1 and THETA X (as well as DSLRs) have pros and cons, so you may want to use them for different situations.
THETA XのHDRIデータを使った3D CG
新・HDRIプラグインについて
5月にリコーから「HDRIプラグイン」という、EXRデータを直接生成することができるTHETA Z1用のプラグインをリリースしました。通常、マルチブラケットで撮影した画像データは、PCで画像編集した上で、EXRデータを生成するという手間がかかりますが、これを撮影からEXRデータの生成までこのプラグインで対応しています。
自分自身は、マニュアルで各露出などを設定し、PCのトーンマップ処理も自分自身で行いたいのですが、確かに、あまり高額な機材や設備を用意することができないフリーランサーの方や、初めてCGにトライしてみたい人には、簡単にEXRデータが取り出せるので便利かもしれません。
THETA Z1のため、JPEGだけでなく、DNGデータも撮れるため、場合によってはプロフェッショナルに近い用途でも使えるかもしれませんね。
ありがとうございました!ぜひ、今後もTHETAをCGの現場でもご活用ください。
編集:平川
撮影:大原