木村琢磨さんは岡山県を拠点に活躍される写真家です。
>>前回のインタビューに引き続き、RICOH THETAシリーズの中でフラッグシップモデルであるTHETA Z1の魅力について伺ってみました。

―前回のインタビューの「THETAは写真ではなく、アート」というお言葉が印象に残っております。
木村琢磨さんにはTHETAシリーズを初代から、THETA S、THETA Vと歴代モデルをお使いいただき、現在は写真家としての表現の領域にもTHETA Z1を活用いただいています。THETA Z1がこれまでのモデルから進化したところ、表現ツールとしてのポテンシャルについて教えていただけますでしょうか?

優れた画質とRAW記録で、自分の表現を追求できるTHETA Z1

私がZ1の良いと思うところは大きく「画質の向上」と「RAW(DNG)記録」ができるようになったことです。

画質については、新しいレンズユニットと、大型イメージセンサーの恩恵で過去機種から飛躍的に進化しました。

過去機種では特にレンズ周辺部で捉えた木の葉などの細かいディテールは、ほわほわと綿のようになってしまい解像しきれないシーンもありました。THETA Z1はレンズ周辺部も前モデルと比較すると圧倒的に良くなり画面全域で非常にシャープに写り、被写体のディティールの解像感が明らかに向上しました。初代からTHETAシリーズを使ってきた人間からすると、1.0型裏面照射型CMOSイメージセンサー2枚と新設計のレンズ2枚を備え、圧倒的な描写クオリティを実現しているTHETA Z1は驚異的なコストパフォーマンスだと思いますね。

また待望のRAW(DNG)記録が扱えるようになったことが、文字通り表現の幅を大きく広げました。
写真の印象に大きな影響のあるホワイトバランスを後でリバランスできることもメリットですが、私はもっと積極的に自分のなかの記憶色に合うようにAdobe LightroomなどのソフトウェアでRAW現像しています。
色味やトーンを好みに整え自分らしい映像表現をしたい私にとって、RAW撮影が可能なTHETA Z1は革新的な360°カメラとなりました。


※河津桜の中にTHETA Z1を突っ込み撮影した作品。花びらのディティールまで捉え桜が咲き誇る姿を表現した。画面中央の空の青と桜のピンクを対比を見せるため記憶色に編集した。

風景写真をメインにする私にとっては、THETA Z1のダイナミックレンジが広がった点もとても心強いです。屋外での360°写真では必ず太陽が映り込むので、明るい太陽と光が当たらない影の部分の輝度差との戦いになります。その輝度差の大きいRAWデータを現像することで肉眼で見たときのような白飛び、黒つぶれが少なくしっかりと色が出た絵画のような表現ができる。これはTHETA Z1になってからこそですね。

―THETA Z1ではどの程度RAW撮影を活用されているのでしょうか?

THETA Z1ではRAW撮影がほとんどです。THETA Z1のJpegは非常に現実に忠実な色味再現をしているのでそれも良いのですが、THETA Z1はRAWで撮らなければもったいないと感じてしまうほど素晴らしいデータを得ることができます。
写真家としての私にとっては、目に見えた忠実さよりも自分の頭の中にあるイメージや、被写体と出会った瞬間、シャッターを切ったその瞬間に感じた想いをどれだけ一枚の写真に込めて表現できるか、つまりRAW現像というプロセスで丁寧に扱えるかが重要なポイントです。
360°被写体のディティールをしっかりと捉えRAW撮影が可能なTHETA Z1は、僕にとって最高の表現ツールです。

スティッチングソフトPTGuiでTHETA Z1のポテンシャルが生きる。

―木村琢磨さんの作品は「記憶色」と表現されたように非常に色鮮やかで印象的ですが、どのようにRAW現像、編集されているのでしょうか?

私の作品制作で実践しているTHETA Z1のカメラが持つ性能をフルに引き出すための現像テクニックをご紹介したいと思います。

現在リコーのデスクトップ純正アプリRICOH THETAではそのままRAW編集が扱えず、画像編集ソフトAdobe Lightroomとスティッチングソフト(リコーではRICOH THETA Stitcherをプラグインとして用意)を組み合わせて使用する必要があります。私の場合、RAW現像はAdobe Lightroom上で行い、その後のスティッチングに関してはスマホアプリTHETA+だとTHETA Z1の持つ画素数を引き出しきれないため、パノラマVRフォトグラファーのプロフェッショナル向けソフトウェアの「PTGui」https://www.ptgui.com/ を作品作りに愛用しています。


※このハワイのダイヤモンドヘッドでの作品はその場の人々の一瞬の様子までも360°で捉え、水平線の広がりを見せるように広角に展開した。写真を複数枚撮影しパノラマ合成すると、動きがある人がつながらない場合が多く、360°を1ショットの一瞬で撮影できることはTHETAの強みだ。

このソフトでは、スティッチング時の自由度と調整幅が大きく画像センターの移動が可能、レンズ周辺の解像感をうまく扱うことができると思います。また書き出し時にTHETAが持つ画素数以上のピクセル数を任意に入力して出力できるため、例えば「30000px」×「25000px」で書き出すことで7億5千万画素相当の画像が作れる点が気に入っております。PTGuiで作業したデータを再度Adobe Lightroomでシャープ編集してリサイズして書き出すと擬似的に解像感を上げることができます。このソフトウェアは16bitのTIFFファイルが扱えるので、Adobe Lightroomと16bitのTIFFファイルで受け渡しすることでTHETA Z1のRAWデータの劣化を最小限に扱うことが可能です。このPTGuiをAdobe Lightroomと共に使いこなすことでZ1の持っているポテンシャルをフルに活かせると考えています。

―なるほど。リサイズすることで擬似的な解像度を上げることがポイントで、木村琢磨さんの作品はパリッとして印象強く見えるのですね。

PTGuiを使いこなすことでTHETA Z1の評価が変わるのではと思います。THETA Z1ユーザーの方は是非チェックしてみてください。

木村琢磨流THETA Z1撮影セッティング

―木村琢磨さんが普段どのようにTHETA Z1を設定して撮影されているか教えていただけますでしょうか?

私は基本的にはマニュアルで撮影しております。
絞りの設定値に関してZ1は3段階(F2.1、F3.5、F5.6)の絞りが選択できますが、基本はF5.6に絞ります。

絞り込むことによって解像感が高くなり、特にTHETA Z1の場合は距離が近い被写体のディテールが良くなると感じています。


※ポールにTHETA Z1をトライポッドで設置して撮影した作品。絞り込んで撮影したことで金属部のサビなど近接する被写体の質感までしっかり表現できている。

ISO感度はISO80を基本にしており、露出は手持ちで撮らずに固定して撮影することが多いのでシャッタースピードで調整していますね。
私がテストした限りダイナミックレンジはISO100の方が広いが、ISO80の方がノイズが少なくなる傾向があるので、若干アンダーな露出で撮影してRAW編集のステップで持ち上げることが多いです。

上記設定をマイセッティングにしておけば良いのですが、マイセッティングだとISO200からしか選べないので必然的にマニュアルでの撮影になります。
BiRod(前回インタビュー参照)を使った撮影でも、揺れ方が大きいためシャッタースピードを長めに設定しても手ブレの撮影への影響は少ないです。

―マニュアル撮影だと露出が難しい印象がありますが、コツはありますか?

私は撮影時に都度テスト撮影して、露出を確認して適宜調整するようにしています。

露出のコツですが、基本的には適正露出で撮ると後々の編集工程でも使い勝手が良いと思います。私はそこから更に見せたい主題にあわせて露出を追い込んて行きます。

星撮影の時にはF2.1でシャッタースピード60秒で使っています。この設定だとISO感度1600でギリギリなので、THETA Z1のシャッタースピードをMAXの60秒より長く設定できるようにしてほしいですね(笑)。

―良い点について教えて頂きましたが、木村さんの撮影においてTHETA Z1の弱点はありますでしょうか?

私の撮影のやり方だとバッテリーが心配になることがあります。例えば長時間に渡るタイムラプスだとバッテリーが心配です。
モバイルバッテリーから給電しながらの撮影だと、バッテリーの隠し場所が問題になるのでTHETA V 専用 3DマイクロフォンTA-1のような形のオプションバッテリーを作ってほしい。またこちらも同様ですが、SDカードが入らないので長時間の撮影では不安があることがあります。Pentaxのフルサイズ一眼レフK1がK1mark2へのアップグレードプログラムを実施したように内蔵の記録容量をアップグレードするプログラムがあれば嬉しいですね。

―THETA Z1ではどのようなプラグインをご利用頂いていますか?

私が使っているプラグインは「USBトランスファー」「タイムシフトシューティング」「デュアルフィッシュアイ」です。「リモートコントロール」も私はスマートフォンと接続してマニュアルで撮影設定をするので、カメラ本体で設定ができるようになれば使い勝手が良さそうだなと思っています。例えばどこかのボタンを長押しすることで段階的にISOとSS値が変えられると良いんですけどね。

これらの作品も前回のインタビューでご紹介した方法でタイムシフトシューティングを活用して撮影したものです。

―本日はTHETA Z1について、表現ツールとしての魅力から、おすすめのソフトウェア、詳細な撮影設定まで貴重なお話をありがとうございました。

360°写真表現の世界はまだまだ出来たばかりと言っても過言ではなく、好きに撮り好きに編集し好きに発信できる、本当に自由な世界です。
高画質でRAW撮影が可能なTHETA Z1は、その世界を余すことなく楽しむことができるカメラだと思います。
私も写真家としてTHETA Z1を使い、新しい表現を発信し続けていきたいと思います。

(インタビュー:大原)

木村 琢磨 Kimura Takuma
WEB: https://www.takumakimura.com/
Twitter:https://twitter.com/PhoTones_Re

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