木村琢磨さんは岡山県を拠点に活躍される写真家です。
今日は木村琢磨さんが写真家として活躍されるまでのバックグラウンドと、360°カメラRICOH THETAを使う理由について伺ってみました。
写真家 木村琢磨のバックグラウンド
―木村琢磨さんの作品は、まるで目の前にその景色が広がるような色彩の鮮やかさが印象的です。木村琢磨さんの作風にはどういった影響があるのでしょうか?
そうですね、よく私の作品の色使いは鮮やかだという評価を頂きます。 これは写真という現実を忠実に捉えるのではなく、絵画のように自分が感じた見え方を描き出すことに重きを置いているからかもしれません。 その背景には、子供のころから絵を書くのが好きで絵画の影響を多分に受けていたこと、また当時のめり込んでいたゲームの映像や演出、色使いの影響があると思います。 自分は「記憶色」が好きで、そこには写真とは直接的な関係が無い領域からのインスピレーションも多いのだと思います。
―木村琢磨さんは風景からポートレート、広告写真、ドローン空撮、ムービー、VRまでと撮影領域を多岐に活躍されておりますが、 現在のお仕事に至るまでのバックグラウンドについて教えていただけますでしょうか?
実は、昔から写真に興味が有ったわけではなく、幼少の頃から映画監督の仕事に憧れをもっていました。写真との出会いは、 映画に関係するクリエイティブの仕事に携わりたいとCGや画像処理を学ぶ過程で、加工用素材を用意するためにコンパクトデジカメを購入したことがきっかけとなりました。自分で写真を撮影、編集していると自分の表現はもしかしたら写真にあるのでは、と感じるようになりました。
その後は広告写真スタジオに就職し、写真というメディアを使ってビジュアルを制作する仕事に携わりました。
現場ではアイデアを写真で伝えるために、演出や表現といった技術を選択しビジュアルを組み立てていく逆算的思考をしています。アイデアを伝えるために技術で組み立てていくアプローチは広告も映画も非常に似ていると思うのです。これは見方を変えると技術を習得することによって自分の中にあるアイデアを豊かに表現出来るということです。
その広告写真スタジオでは写真家として独立するまで12年間修行しました。風景・料理・建築・ポートレートまでお客さまからの要望に応えるスタイルのスタジオだったため、様々な撮影ジャンルを横断して多くの技術が身についたと感じています。私は写真の根本は「光」と「距離感」だと考えているので、他のジャンルで身につけた技術や表現を現在の仕事においても柔軟に活かすことができるようになりました。
―独立して写真家となったきっかけを教えてください。
カメラマンの仕事は、お客さんの頭の中にある「こんなビジュアルがほしい」という答えを汲み取って形にする仕事だと考えています。お客さんの頭の中のイメージにできるだけ近い形で提示しようと必死に頑張るなかで、自分だと全く思いつかないような見せ方・技術を求められることもありました。そのチャレンジが自分の技術や撮影の引き出しを増やしてくれ、お客さんにも感謝され、仕事の達成感、やりがいを感じる瞬間を多くもたらせてくれました。
その一方で、私は自分の中にある「表現をしたい」という気持ちが強くなっていくのを感じていました。仕事が終わったあとに深夜に人が寝静まった街を撮影に行ったり、川に入って魚を撮影したりなど自分の表現活動としての写真撮影を続けていたのですが、写真家としての表現活動を自分の中心にしたい気持ちが抑えきれなくなり、フリーランスとして独立を決意しました。私は写真の価値は「芸術」と「情報伝達」だと思っています。岡山県に生まれ育った人間の目線と、写真家としての視点を組み合わせて地元の景色を撮り表現して行きたいと思っています。
THETAは、写真ではなくアート。
―写真家として独立された今にいたる過程で、どのようなきっかけで360°写真とTHETAに出会ったのでしょうか?
実はTHETAは初号機を発売日に購入しました。当時360°写真の仕事の関係で全天球カメラやその撮影方法は知っていたのですが、THETAに関してはカメラという扱いよりも物珍しさからガジェットツールと思って購入しました。購入したあとの用途は、作品撮りよりもロケハン時の記録用の使い方がメインでしたね。THETA Sになり画素数が上がってからは作品撮りとしても使えると思い、リトルプラネットから360°画像を編集をして一枚の絵として表現する活動を本格的にスタートしました。ちょうどそのあたりからRICOH THETA パーフェクトガイド II (インプレスムック DCM MOOK)やCP+リコーブースでトークなどでTHETAに仕事としても携わるようになりました。
THETAの新モデルが出る度に買い替え、さまざまな撮影方法を試行錯誤し編集を繰り返していくと、THETAの写真は単なる記録的な「写真」ではなく芸術的な「アート」だと捉えるようになっていきました。THETAは編集プロセスで現実を撮影した写真を、現代アートのような作品に昇華することができます。私は印刷して部屋に飾れるような抽象的な作品をTHETAで撮り、作りたいと思っています。 だから僕のTHETAの作品をみてくれたときに「え!これは写真なんですか?絵だと思いました。」と反応してくれるととても嬉しいですね(笑)。
木村流の撮影方法 THETAの撮影は、全て実験だ。
―普段THETAではどのようにして撮影されているのでしょうか?
最長7.5mの一脚>>BiRodを使用しての撮影が私は面白いと思っています。上のハートの作品もBiRodで撮影したものです。(※BiRodは木村琢磨さんが愛用していることで木村棒と呼ばれている)
もともとの出会いは、一緒に仕事した映像作家さんがドローンで撮影したハイアングルの俯瞰映像の面白さに興味をもったことがきっかけです。自分も写真で同様の表現が簡単にできれば、とハイアングル撮影について検索していてBiRodを発見しました。最近は上に伸ばすだけでなく、横に伸ばすような使い方をしています。BiRodを使うだけで面白い絵がとれますし、使い勝手も良く先端部の動きがゆるやかなのでほとんど手ブレは気にしなくて良いんですよ。
THETA公式のプラグインとして、片側のレンズごとに時差撮影する「タイムシフトシューティング」が登場したことで作品に自分が写りこむ心配がなくなりましたが、最近はレンズ毎の撮影時差間にカメラの向きを変えるなど積極的に表現として使っていてとても面白いですね。 それを応用したのが、飛行機窓から撮ったこちらの作品です。
―木村さんのようなアーティスティックな作品は撮影時に意図して作り込めるものなのでしょうか?
長いことTHETAを使っているおかげで8割は想像できるようになりましたが、残りの2割は編集していてハッと面白さに気がつくことが多いです。 作品を撮りだめていて定期的に再編集しているのですが、撮影時だけでなく編集時にも新しい発見があり気づきを楽しめることがTHETAの魅力の一つだと思います。
このハワイのダイヤモンドヘッドでの一枚はお蔵入りしていた写真だったのですが、時間を置いて見直してみると、「自分がその場にいた時は広角の視点で風景を見ていたな。」と思い出し再編集することで生まれた作品です。
私はTHETA作品に取り組むとき、まるで映画のポスターのようなインパクトと世界観を持つ作品をつくり上げたいと思いながら編集しています。 THETAは撮り方も決まりがなく自由なので、編集もどこまでも自由にやって許されるのが面白いところだと思います。
―THETAをはじめた初心者の方が撮影を楽しめるような着眼点はありますか?
一つはこれまでカメラが入れなかった場所にTHETAを仕掛けることが面白いと思います。通常のカメラだったら絶対に撮れない場所、 例えば自動販売機の中で缶カンの視点で世界を見る。普通に使ったら面白くないです。
もし迷うようであれば鉄板の超ローアングルがおすすめですね。
この写真は地面に置いて撮ったことで、シルエットになっている自分よりも植物のほうが大きく写って構図の面白さがあると思います。
カメラが好きでTHETAにも興味をもった人は、THETAだけ持って街を歩いてみる「THETAの日」を作ると必ず新しい発見があると思います。
普通のカメラのように深く考えて撮影に望むと、THETAは全くシャッターが押せなくなります(笑)。
THETAは全部実験。形も自由だし、色使い撮影も編集も全部自由。カメラや写真に疲れちゃった人こそTHETAを使えば良いと思ってます。
―現在はTHETAシリーズ最高画質を実現した、フラッグシップモデルTHETA Z1をご利用頂いておりますが、どのような部分が進化したと感じられますか?
私にとって写真は自己表現の手段です。被写体と出会った瞬間、シャッターを切る瞬間に感じた想いを編集の過程で一枚の作品に反映していく。目に見えた忠実さよりも、自分が心で記憶したイメージをどう表現できるかが表現ツールとしてのカメラにとって重要なポイントです。
THETA Z1はこれまでのTHETAシリーズから画質・解像感が飛躍的に向上し、360°の世界を高解像データとして丁寧に捉えることができます。またRAW(DNG)撮影に対応しRAW現像することで色味・トーンを自分の記憶したイメージで表現することができるようになりました。
自分らしい映像表現を追求できるTHETA Z1は私にとって最高の360°表現ツールです。
<次回 THETA Z1インタビューに続く>
(インタビュー:大原)
木村 琢磨 Kimura Takuma
WEB: https://www.takumakimura.com/
Twitter:https://twitter.com/PhoTones_Re