リコーは現在「OAメーカーからデジタルサービスの会社への変貌」を戦略の軸に据え取り組んでいます。デジタルサービスの会社とは、「はたらく人の創造力を支え、ワークプレイスを変えるサービスを提供する会社であり、オフィスと現場をつなぎ、デジタル技術で生産性向上を実現する会社」と定義しています。
その一翼を担う360度カメラRICOH THETAについて、どのような期待が持たれているのか、株式会社リコー 代表取締役 社長執行役員・CEOの山下良則さんにお話を伺いました。対談の相手は、THETA事業部 藤木仁 事業部長です。
デジタルサービス会社 リコーの中でのTHETAの位置づけ
藤木: THETAは2013年にコンシューマー向け商品として発売しましたが、ここ数年は、親和性の高い様々なサービスが出てきたこともあり新機能・新機種を加えビジネス向けの訴求にも力をいれてきました。
現在ではビジネス向けでも多くの方に活用して頂いています。リコーがデジタルサービスの会社に転換していく中で、山下さんはTHETA事業の位置づけをどのように考えておられますか?
山下: THETAは、人間の五感で最も多くの情報を認知する“視覚”に重要な画像情報を与え、ワンショットでキャプチャーしデータ化するという、ビジネス向けにおいて最適なデバイスだと考えています。リコーの強みは、エッジとなるデバイスをお客様に提供しお客様の傍にそれを置くことで、お客様のデータに価値を加え、サービスとして提供できることです。
例えば現在、ソリューションビジネスとしてバーチャルツアー等のサービスを提供するTHETA360.bizの販売は急速に伸びていますが、THETAのおかげで、非常にリコーらしいデバイスとサービスが提供できていると思います。
現在リコーは、お客様のオフィス環境のデジタルサービス化を中心に担っていますが、例えば製造業の工場や販売店舗などの現場はデジタル化がまだあまり進んでいません。現場のデジタル化の第一歩として、そこを画像でキャプチャーすることで、そのためにTHETAはとても大事なエッジデバイスになると認識しています。
山下: 今後、リコーがデジタルサービスの会社に転換していく上で、お客様のそばで製品やサービスを提供するだけでなく、お客様から取得したデータにどのような価値を乗せていくかが、ソリューションやプラットフォーム視点で重要になります。※1
今後はさらにエッジデバイスであるTHETAを活用し、リコーを引っ張っていくプラットフォーム型ビジネスとしての発展が望まれます。
※1
ソリューション型ビジネス: 特定のお客様のニーズに合った解決策をサービスとして提供するビジネス
プラットフォーム型ビジネス: 例えばAmazonやGoogleのように、広いユーザーを対象としてサービスの基盤”プラットフォーム”を提供するビジネス
画質を追求した、フラッグシップモデルTHETA Z1の登場
藤木: THETA発売当初は、新しい映像体験を好む先進的なコンシューマーをターゲットにして販売して受け入れられてきましたが、THETAをビジネス向けに活用していこうとすると、画像を含めた品質が十分ではありませんでした。
そのために、それら品質向上を愚直に追求していったことが、ビジネス向けの販売が伸びた一つのカギであったと考えています。
山下: THETA発売当初は、自分でもよくTHETAをお客様先でPRしていました。そのような場でTHETAを見せると、他社のCTOの方々から、「THETAは自分たちのビジネスのここで使えそうだ」というアイディアが良く出ていました。
THETAがビジネスでも活用されるようになったのは、THETAのデバイス自体の進化と、それを活用したビジネス向けのサービスのアイディアが増えてきた、その二点が両立したからだと思います。
【THETA Z1の内部構造を紹介するためのスケルトンモデル】
藤木: THETAの進化という点では、THETA Z1をTHETAのフラッグシップモデルとして2019年5月に発売しました。1型センサーを取り入れ、片手で持てる小型360度カメラとして最高画質を目指したモデルです。
レンズからセンサーまでの距離をリコーの屈曲光学技術で確保しつつここまで薄くすることが出来ました。他社が同じようなものを作ろうとしてもこのサイズでは作れないでしょう。まさに、リコーの光学技術を駆使した最高の製品です。
【THETA Z1のスケルトンモデル】
藤木: THETAはコンシューマー向けに色々なお客様に使用して頂いていますが、ビジネス向けでも、不動産・中古車・建設・工事現場など、活用のシーンが増えてきています。最近は、ビジネス用途での360度動画ライブストリーミングのニーズが増えてきています。Z1は温度30度の環境でも、24時間連続でライブストリーミングが稼働できるように対応します。
コンシューマー向けだけであればそこまで対応する必要はありませんが、ビジネス向けの用途を考えると、そのような機能対応も必要とされてきます。
山下: THETAをビジネスで活用してもらう上で、業種ごとに考えていくことも必要になるでしょう。例えば、THETAは広角レンズのため、遠い場所の画像が非常に小さくなってしますが、工場等の現場では近付き難い場所ほどよく見たい、というニーズもあります。そのように、業種ごとのニーズを反映するなど、ハードも更に進化していってほしいと思います。
コロナ禍におけるTHETAの需要拡大
藤木: THETAの需要は、この新型コロナ禍でバーチャルツアーの活用など、全世界的に急激に高まっています。ただ、これは一時的ではなく、世の中の変化の流れとして不可逆なもので、ニーズは増えこそすれ減らないだろうと考えています。この点について山下さんはどうお考えですか?
【THETAの画像:南アフリカの代理店メンバーと】
山下: このコロナ禍で、人々は変化を模索している段階だと思います。出来なくなったことを何で代替えしようかと考えたり、逆にやらなくても良かったことに気が付くこともあるでしょう。ただし、やらなくていいことを無理に代替した事は、またいつか無くなることになります。
「本質的に代替えが必要なことを代替えしていく」ということが大切なので、THETAでお客様の何かのワークフローを代替えしていく際も、「何がお客様にとって本質的に必要なのか」ということをお客様と一緒によく考えていってほしいと思います。
コンシューマー向け商品としてのTHETA
藤木:一方で、THETAはもともとコンシューマー向けとして企画された商品でもあります。コンシューマー用途のTHETAについて、山下さんはどのようなお考えがありますか?
山下: BtoB(ビジネス)・BtoC(コンシューマー)という分類でよく言いますが、toBとtoCはかなり融合していると思っています。今はコンシューマーとビジネスは簡単に垣根を分けることができません。その間を行ったり来たりする人や業界もあるでしょう。「BtoC」の定義も、昔の「白物家電」のようなイメージではなく、ソフトウェアの進化に伴い大きく変わってきています。
【THETAの画像:米エリクサジェン・サイエンティフィック社のメンバーと】
藤木: おっしゃるように、「コンシューマー向けとビジネス向けの垣根が少ない」というところは、まさしく今、我々が狙っているところでもあります。
例えば弁護士の方やデザイナーの方、建築士の方など、現場の記録用途としてお仕事でTHETAを活用され、また一方でプライベートでは旅行や家族の思い出としてもTHETAを使う方もいらっしゃいます。また、そのような方々がTHETAを購入する場所も、コンシューマー向けのWEB購買ルートだったりと、BtoBとBtoCはまさしく垣根がなくなってきている、と感じています。
山下: 人には、「睡眠」「働く」「余暇」の3種類の時間があります。その場合、その人の「余暇」の部分にその商品を使ったらコンシューマー向け、「働く」部分の時間に使ったらビジネス向け、と言っているだけで、お客様個人の視点から見ると、BtoBの世界にも、BtoCの世界にも、すべての人が参加している、ということになるわけです。
先ほど弁護士のユーザーさんの例を挙げていましたが、普通にオフィスで働いているような方でも、「キャンプで使っているこのカメラは、仕事でも使えそうだ」と思う人も出てくるでしょう。BtoBやBtoCというのは、会社側からの視点で言っているだけで、お客様から見れば、その人はビジネス向け、コンシューマー向け両方になりうるのです。
そのとき、このTHETAというデバイスの価値は、「その両方に使える」というところになると考えています。
今後、THETAをより成長させるためには、コンシューマー向け、ビジネス向けの垣根なくお客様に価値を提供し続けていくことが大切です。
THETAへの期待
藤木: 最後に、THETAへの今後の期待と、またTHETAの事業に関わるメンバーに何かメッセージをお聞かせください。
山下: THETAは、「世の中に夢を与えたり、世の中に役に立っていることをしている」という自覚を、事業に関わるメンバーに持ってもらいたいと思います。もちろんビジネス向けでは働く人の生産性を上げている、という点もあると思いますが、コンシューマー向けでは、生きている人たちに、色んな意味での思い出や楽しみ、今までに感じたことがない高揚感を与えることができる仕事だと思います。
【THETA Z1 市村賞受賞式】
山下: また、THETAは、人間の五感で最も多くの情報を認知する視覚に重要な画像情報を与え、ワンショットでキャプチャーしてデータ化するという先進的なデバイスです。
世界一のユニークなデバイスがあり、サービスもある。その先鋒としてTHETAは重要な事業であり、重要なデバイスであると思っています。これからも頑張ってほしい。期待しています。
編集:平川 、 撮影:大原