360度カメラのRICOH THETAシリーズ最高画質を誇るRICOH THETA Z1 シリーズ。その特徴のひとつが、一型センサー搭載による高精細な静止画画質と、RAW(DNG)フォーマットによる画像編集のポテンシャルと汎用性です。

THETA Z1 では、1枚ずつRAW(DNG)撮影した画像を、Lightroom Classicを使って自分好みの画像編集を行うことができます。

さらに、パートナープラグインである「DualFisheyeプラグイン」をインストールし、「HDR-DNG」モードで撮影すると、明るさを変えてブラケット撮影した最大9枚のDNGデータを、THETA Z1本体内部で一枚のHDR-DNGファイルに自動合成し、よりダイナミックレンジの広い画像を編集することも可能です。

この「DualFisheyeプラグイン(以下DFEプラグイン)」のHDR-DNGモードは、特にコロナ禍の影響で急増した海外のバーチャルツアー用途で、世界中のパノラマフォトグラファーや写真愛好家の方々に活用されるプラグインとなりました。

DFEプラグイン HDR-DNGで撮影・編集

ただ、THETA Z1のRAW編集や、DFEプラグインのHDR-DNGモードは、実際に使ってみると手順で戸惑うことも。

今回は、日本で最も早くからこのDFEプラグインを愛用されているパノラマフォトグラファーのToyo Fujita氏に、DFEプラグイン・HDR-DNGモードの魅力やその使い方のポイントなど、詳しくお話を伺いました!

Dual Fisheyeプラグイン・HDR-DNGモードの魅力

DFEプラグイン ・HDR-DNGモードの魅力について教えて下さい!

THETAには、リコーが公式でリリースする公式プラグインの他に、開発者の皆さまがリリースする「パートナープラグイン」があります。DFEプラグインはIchi Hirotaさんという、日本人でTHETAユーザーの方が独自で開発しリリースしたプラグインです。

Plug-in Store / DualFisheye プラグインのページ

DFEプラグインには、4つのモード(Single/Bracket/Burst/HDR-DNG)があり、今、最も注目され活用されているのが「HDR-DNG」モードです。ここでは、HDR-DNGモードについてのみ説明します。海外の360度画像関連コミュニティでは、このプラグインに関しての情報が頻繁にやりとりされています。「DFEプラグイン」と言えば、HDR-DNGモードのことだと言って過言はないでしょう。

DFEプラグイン HDR-DNGで撮影・編集

このHDR-DNGモードが2020年2月のアップデートでTHETA Z1に追加されると、欧米のパノラマフォトグラファーを中心に利用者が増えるのを実感しました。海外のFacebook Groupには、DFEに関する書き込みが連日殺到し、注目を集めるようになったのです。

HDR-DNGモードのどんな点が注目を浴びているのでしょうか?

一番の特徴は、カメラ(THETA Z1)内で一枚のHDR-DNG画像を生成することです。HDR合成によって、よりノイズの少ない画像になります。これまで、画質を追求するプロのパノラマフォトグラファーたちは、明るさを一枚一枚マニュアルで設定し、DNGデータで複数枚を撮影する「ブラケット撮影」と呼ばれる手法を用いていました。その後、Lightroom Classicなどで一枚のHDR画像に合成するのです。

DFEプラグイン HDR-DNGで撮影・編集

THETAのような360度カメラを使わず、通常の一眼レフを使用する場合は、これを上下と水平面4方向の計6方向×複数枚をブラケット撮影し、一枚の360度HDR画像に合成する必要があります。この場合、PCのマシンパワーやストレージ容量だけでなく、膨大な編集時間も要します。

しかし、DFEプラグインのHDR-DNGモードでは、その撮影・編集効率を大幅に削減し、高画質な360度のHDR画像を作り上げることができるのです。

Androidのリモートアプリを使ってHDR-DNGモードを撮影中

なるほど・・・!HDR-DNGモードで作り上げるHDR画像は、JPEGでのHDR画像と、どれくらい違うのでしょうか?

HDR-DNGモードは、Lightroom Classicでの画像編集が必要になります。そのため、もちろん個人の編集テクに左右される面もありますが、初心者でもダイナミックレンジの広さを実感できるような画像を編集することはできるでしょう。

Z1 JPEG HDR合成で撮影↓

DFEプラグイン HDR-DNG 9枚合成で撮影・編集↓

THETA Z1の標準機能で撮影可能な、Single DNG (RAW+)を使った編集画像とも、違いは感じますか?

以下の2枚の画像で、SingleDNG(一枚のDNG画像から現像)とHDR-DNGを比べると一目瞭然です。ベンチ上のランチセットは、どちらも綺麗に写っています。しかし、向かい側のプラットフォームはどうでしょう。HDR-DNGでは、白飛びを抑えて綺麗な青空も見えます。

THETA Z1 Single DNG (RAW+)で撮影・編集↓

DNGプラグイン HDR-DNG(±4EV)で撮影・編集↓

DFEプラグイン HDR-DNGモードの撮影方法

海外にある360度撮影関係のFacebookコミュニティでは、このプラグインの使い方について、連日のように質問の投稿があるようですね。Toyoさんには、これらの質問にいつも回答して頂いていますが、使い方の概要や、初心者が躓きやすいポイントを教えて下さい!

まずベーシックな質問で「どこでインストールするの?」という質問を目にします。THETA Z1に標準搭載されている機能と勘違いされている方も多いのですが、あくまでも「プラグイン」のため、プラグインストアからインストールする必要があります。

◆プラグインのインストール方法

 1)PC用THETA基本アプリをダウンロードし、PC上でTHETA基本アプリを起動

ダウンロードはこちら

 2)PCとTHETA Z1をUSBケーブルで接続

 3)プラグインストアから「Dual Fisheyeプラグイン」をインストール。

 4)THETA Z1本体で切り替え可能なプラグイン(3種類登録可能)に割り当てる。

プラグイン登録方法、詳細はこちら

DFEプラグイン HDR-DNGで撮影・編集

◆HDR-DNGモードの撮影方法

続いて撮影方法です。撮影するには、THETA Z1本体のボタンで操作する方法と、専用のリモートアプリを使う方法の二種類があります。

◆本体での撮影設定方法

 1) Modeボタンを押し、「HDR-DNG」モードを選択

 2) Fnボタンを押し、「DNGモード」を選択

 3) Wi-Fiボタンを軽く押し、撮影枚数を選択(3/5/7/9枚)から選択。※1EVごとに1枚

 4) Wi-Fiボタンを長押しし、10秒セルフタイマーをONにする。

 5) 本体のシャッターボタンで撮影開始

THETA Z1のボタンで撮影設定

◆リモートアプリでの撮影設定方法

Android用のリモートアプリを使うと、どんなことが可能になるのでしょうか?

基本的な操作は、THETA Z1本体のみでも可能です。ただ、以下の機能はAndroidのリモートアプリのみで対応可能です。

・絞り値(f値)の設定変更

・GPSによる位置情報の取得

・Motion Detectの変更※

DualFisheye Plugin Remote for Android のダウンロードはこちら

※Motion Detect : 基本は常に「ON」で使用しましょう。リモートアプリを使用しない場合は、デフォルトで「ON」になっています。OFFにした場合、動きの激しい被写体がピンク色になる「ピンクノイズ」が発生する可能性があります。Dual Fisheyeプラグインの最新バージョンアップ版(2021/3/17 version 2.12.0)では、このノイズが軽減されました。但し、動く被写体がない環境の場合は、「OFF」にしたほうがノイズが少なくなる可能性もあります。

リモートアプリでの撮影設定画面

リモートアプリは、Android用のみしかありません。iOSは今後も予定されていません。iOSユーザーは、THETA Z1本体のみで撮影設定する必要がありますが、本体のみでも基本的な撮影設定は可能です。ただ、アプリを使った方がスムーズに撮影設定することができ、また、絞り値の設定やGPSの位置情報取得も可能になるため、わざわざこのアプリを使うために、Androidの端末を買うTHETA Z1ユーザーもいるようです。

注:THETAとリモートアプリがうまく接続できないときは、DFEプラグイン・リモートアプリのバージョンを、共に最新にアップデートしてみましょう。

Android端末からリモートアプリで操作も可

撮影したHDR-DNGファイルの編集方法

続いて、THETA Z1とPCをケーブルで接続して、画像を取り込みます。ここでも、初めて使う方から質問を受けるポイントがいくつかあります。

①MacでTHETAの画像はどこで取り込むの!?

Windows PCとTHETAをUSBケーブルで接続した場合、PC上にTHETA Z1と接続したことが表示され、エクスプローラーのPC直下に「THETA Z1」のフォルダが表示されます。Macの場合は接続したことが表示されないため、「iphoto」もしくは「イメージキャプチャ」内のフォルダから、THETA Z1のフォルダを探しにいく必要があります。

Macの場合はImage Capture等からTHETAの画像を取り込む

FacebookコミュニティでもMacを使用されているユーザーさんから「画像データが見つからない!」という質問をよく見かけます。THETAのダウンロードページにある「Mac用転送アプリ(※)」が必要なのかと勘違いされるユーザーさんもいるようですが、このアプリは不要です。

※THETA Vで4GBを越える動画ファイルを転送する際に必要なアプリです。Z1の静止画転送時は不要です。

②HDR-DNGの画像サムネイルがピンクになる!

HDR-DNGの画像は、同一画像のDNGファイルと一緒に保存されています。また、この2つのファイルは、同じフォルダに保存しておく必要があります。初めてHDR-DNGを撮影した方がよく驚くのが、「サムネイルの画像データがピンク色になるんだけど、エラーなのか!?」ということ。

これは、エラーではありません。サムネイルがピンク色になるのが、HDR-DNGファイルの特徴です。

③編集はLightroom Classic以外ではできないの?

THETA Z1のDNGファイルは、Lightroom Classicのみで編集可能です。理由は、編集後360度画像につなげるための専用のプラグイン「RICOH THETA Stitcher」が、Lightroom Classicのみしか対応していないためです。独自で360度画像につなげるテクニックをお持ちの方もいますが、HDR-DNGファイルはLightroom Classic以外を使用すると、色がおかしくなったりする可能性があるようです。

RICOH THETA Stitcherのダウンロードはこちら

④HDR-DNGの画像データをLightroom Classicで開くと、真っ黒になる!

これも、皆さんがよく驚かれる点のひとつです。ただ、これも問題ありません。Lightroom Classicの編集画面で「露光」や「シャドウ」を上げ、「ハイライト」を下げてみましょう。通常だと白飛びしやすいような、明暗差のある場所も、ダイナミックレンジの広い画像編集ができることを実感するでしょう。

Lightroom Classic編集前元データ↓

Lightroom Classic編集後↓

⑤うまく360度画像をつなぎ合わせること(スティッチ)ができない!

THETAのDNGファイルは、上のようなDual Fisheye(魚眼)状の生データで、編集後はこれを360度画像に繋ぎ合わせる必要があります。ここでは、Lightroom Classic 専用のStitcherプラグインが必要になります。

RICOH THETA Stitcher(Adobe® Photoshop®Lightroom® Classic CC用スティッチングPlugin)のダウンロードはこちら

Stitcherプラグインの使い方詳細はこちら

⑥編集した画像の一部がピンク色になる!

HDR-DNGモードは、静的環境をベースに作られています。そのため、バーチャルツアーでの屋内環境のような動く被写体が少ない環境には適していますが、動きが大きい被写体を撮影した場合、ピンク色のノイズが発生することがあります。撮影時は、三脚やスタンド等でTHETAをしっかり固定しましょう。

※Dual Fisheyeプラグインの最新バージョンアップ版(2021/3/17 version 2.12.0)では、このノイズが大きく軽減されました。

動き過ぎる被写体だとピンクノイズが発生

⑦底面のスティッチがずれる!

撮影時は、THETAアプリとTHETA Stitcherの「カメラ映り込み軽減 (Camera Visibility Reduction)」は「OFF」にしておきましょう。設置している三脚の足などの映り込みが出る替わりに、カメラ底面のスティッチ精度が向上します。

カメラに近い位置のスティッチがずれる!という声は、このモードが「ON」になっているケースが多いです。「OFF」にしておくことをお勧めします。

※撮影時のスマホ上THETAアプリの設定で「OFF」にしていても、画像編集時のRICOH THETA Stitcher読み込み時にONになっていることもあります。

⑧撮影時にフリーズした!

撮影時にフリーズした場合は、一度強制的に電源オフしてみると良いでしょう。THETA Z1本体のWi-Fiボタンと電源ボタンを同時に長押しすると赤ランプが点灯し、THETAの電源が強制的にオフになります。その後再起動し、再度撮影を試してみて下さい。

DFE プラグイン HDR-DNGモードによるマーケットへの影響

DFEプラグインのHDR-DNGモードがリリースされたのは2020年2月。たまたまですが、全世界でコロナの影響が深刻になり、各国でロックダウンが始まった時期と重なりました。このプラグインのリリースは、パノラマ撮影業界において、どのような影響があったと思いますか?

特に欧米では不動産の内見をバーチャルツアーを用いて行うニーズが急激に増え、THETA Z1のような従来の一眼レフと比べると安価で、手軽に360度撮影できる360度カメラのニーズが高まりました。

またさらに、THETA Z1でこのHDR-DNGモードを使って撮影・編集することで、一眼レフとは遜色のないようなダイナミックレンジの広い画像編集を行うことができ、SNSやYouTubeなどで瞬く間にそのうわさが広まりました。

DFEプラグインのHDR-DNGモードの登場によって、THETA Z1がバーチャルツアーで活用できる、という理解が深まったと思います。

DFEプラグイン HDR-DNGで撮影・編集

海外では、主にどのようなシーンでこのモードが活用されている印象でしょうか?

バーチャルツアーを提供するような業者や、不動産関係者、自動車やクルーザーなどの中古販売業者に多く活用されているイメージです。もちろん、趣味で作品作りとしても活用されているでしょう。

Toyoさん、ありがとうございました。

HDR-DNGの画像は、通常のDNGファイルの約1.2倍のデータ量が必要になります。RAW+(DNG)やHDR-DNGの撮影を多く利用されるユーザー様には、本体容量が従来の19GBから51GBに大幅にアップしたRICOH THETA Z1 51GBがおススメです。

ぜひ皆さんも、THETA Z1で色々な画像編集にトライしてみてくださいね。

インタビューご協力:Toyo Fujita氏

編集:平川

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