RICOH THETA Xは大型タッチパネルを搭載し、使いやすさを追求しただけでなく、静止画では最大約6,000万画素、動画は最大5.7K/30fpsに対応。また初めて360°動画の撮影時に動的スティッチングや天頂補正に対応するなど、THETAの開発設計上、さまざまな挑戦がありました。
今回は、THETA Xの光学・画像処理・エレキ開発メンバーに、苦労した点や、こだわった点などをインタビューしました!
THETA Xの画像処理/光学設計
THETA Xの開発全体としての狙いをお聞かせください。
北條(開発L):THETA Xはビジネスシーンをはじめとするさまざまなお客様に使っていただく為に、THETA特有の使いにくさを大きく改善すると共に、カメラとしての基本性能の向上も狙っています。また、THETA V/Z1と同様にAndroidベースのOSを搭載していますが、今まで以上にプラグインによる拡張性を感じられるような機種にしたい、と考えました。
北條大輔(開発L)
THETA Xのセンサーの特徴は何でしょうか。
北條(開発L):THETA Xでは、1/2.0型ながらも4800万画素の高い解像度を有するイメージセンサを新たに採用しています。各画素が更に4つの細かい画素に分割されたクアッド・ベイヤー・コーディングと呼ばれる特殊な構造をしており、高解像を優先する動作と低ノイズを優先する動作をシーンに応じて切り替えて使うことができるようになっています。THETA Xで5.5Kと11Kというふたつの解像度を設定できるようになっているのは、そのような理由からです。
THETA X 11K
Photo by Sam Rohn
11Kは高解像である反面、イメージセンサの画素ピッチが狭い為に、撮影設定によっては画像ノイズが増える傾向があります。その為、三脚等に固定した状態でHDRモードやNRモード等で低ノイズに撮影できる方法を推奨します。一方、5.5Kは画素ピッチが広い為、これまでのTHETAと同じ感覚で、手持ち撮影や暗所撮影など幅広いシーンで安定した撮影をすることができます。デフォルト設定は5.5Kですが、タッチパネルで簡単に11Kに切り替えることができます。
鳥海祐二(光学)
解像度以外に、THETA Xの光学系の特徴はありますか?
鳥海(光学): THETA Vなどの従来機種と比較して、色収差を改善しました。色収差には縦の色収差(ピントのズレ)と横の色収差(倍率のズレ)があるのですが、THETA Xではこの両方を抑えた光学設計となっています。特に、画像処理で消すことが比較的難しい縦の色収差を抑え込んだことで、THETA Vなどでは発生しやすかったパープルフリンジも抑えられています。
左:THETA V 、右:THETA X
不動産シーンなどでよく使われるHDR合成の色味も、THETA Xはより自然に感じます。
千秋(画質):例えば電球色等の低色温度の光源下において、THETA V/Z1/SC2は光源の色味を残すようなチューニングを基本としていました。
THETA X 11K HDR
Photo by Sam Rohn
一方で、THETAをビジネスに使われるお客様からは、光源の色味の影響を受けないように補正を掛けたいという要望を多くいただいたこともあり、THETA Xではそのような色味のチューニングに変更しています。
左:千秋正人(画質)
THETA Xの動画設計
THETA Xでは、初めて動画の撮影時にリアルタイムで360°に繋ぎ合わせる処理を行う「動的繋ぎ」に対応しました。ユーザー様から「動画が使いやすくなった」と、多くコメントを頂いています。
北條(開発L):THETA Xの動画は、5.7K (5760*2880px) 30FPS, 8K (7680*3840px) 10FPS記録に対応しています(※1)。また、THETAシリーズとしては初めて、動画記録時に動的スティッチング及び天頂補正を実施しています。360°動画に変換する為の作業が必要なくなり、撮影してすぐに360°動画として活用することができるようになっています。
※1 8K/10fpsは、最新のファームウェアにアップデートをすることで対応します。
THETA X 5.7K/30fps
Shot by Sam Rohn
THETA V/SC2/Z1は、動画記録時にTHETA本体内でスティッチングする場合は、静的スティッチである、という点が異なります。
静的スティッチは、THETAから被写体までの距離に関係なく、予め決められた距離で2枚の画像の繋ぎ処理を行うため、繋ぎ位置では2重像(同じ被写体が写る)や被写体の欠けが発生しやすくなります。一方で、動的スティッチでは、被写体を検出し距離に応じて2枚の画像の繋ぎ位置を変更するため、繋ぎ目が目立ちにくい全天球画像を生成することができる点が特徴です。
THETA Xで動画の「動的繋ぎ」にトライしようと思った背景は何でしょうか?
北條(開発L):従来のTHETAでは、動画に関しては、スマートフォンやPCのTHETAアプリを使って360°動画としてスティッチングや天頂補正をする「変換処理」が必要でした。この変換作業に手間と時間が掛かるのが、360°動画の扱いにくい点でもありました。THETA Xでは、360°静止画と同じような感覚で、より多くのお客様に360°動画を気軽に使ってもらえるように、この技術の開発に挑戦しました。
開発上苦労されたことはありましたか?
吉田(動画):技術的に、本当に動的スティッチと天頂補正がリアルタイムに実現できるか分からない中で、検討がスタートしました。特に動的スティッチは、計算量が多いため既存機種では動画のリアルタイムには対応できておらず、当初は「絶対に実現できる」という技術的な自信はありませんでした。またTHETA Xの動画機能は他にも、4K/60fps対応という目標もありました。処理フローの見直し、ハードウェアの最大限の活用を行って、ひとつひとつ課題をクリアしながら、なんとか目標どおり実現することができました。
THETA X 11K HDR
Photo by Sam Rohn
THETA Xは本体でリアルタイムの動的スティッチと天頂補正に対応したことで、撮影した動画をすぐに視聴することができます。ぜひ色々な方に、積極的に動画撮影にもトライして頂けるとうれしいです。
THETA Xのエレキ設計
THETA Xは、THETAシリーズで初めてバッテリーの交換が可能になりました。設計開発上苦労した点はありますか?
大熊(エレキ):実は、バッテリー交換を対応したという点よりも、「バッテリーを外した状態でもTHETA Xを駆動させる」という仕組みの対応に苦労しました(※2)。
※2 ACアダプターK-AC166J(別売)給電時に使用可能
THETA Xは、バッテリーを外した状態でも、別売りのACアダプターを使って給電しながら、長時間動画撮影することができます。THETAは基本的にバッテリーが入っていることが前提の設計になっているため、バッテリーを外した状態でも安定的に動作させるという点は、THETAのエレキ開発上の大きなチャレンジでもありました。
中央:大熊崇文(エレキ)
THETA Xのバッテリーを外した状態で駆動させたい、というニーズはこれまでもあったのでしょうか?
大熊(エレキ):バッテリーを外して動作させたい、というニーズよりも、「現場の電源に連動してTHETAをON/OFFさせたい」というニーズは、ビジネスの現場シーンなどで聞くことがありました。
例えば、人が入ることができない現場などにTHETAを設置し、遠隔でTHETAの電源をON/OFFさせたい場合などです。そういったシーンの場合、直接THETA Xの電源ボタンを押して起動させなくても、遠隔で給電している電源をONすれば、THETA Xの電源を連動して稼働させることができます。ぜひ、そのような特殊な環境でも、THETA Xを活用して頂ければと思います。
他にも、THETA Xで設計開発上こだわった点はありますか?
大熊(エレキ):THETA Xは、USB HUBを使って動かすことを実現できたのも、嬉しかった点です。これによって、USB-LANで給電しながら長時間動作させることができるようになりました。まだプラグインなどを活用して頂く必要がありますが、何かでUSB HUBとの連携も活用してもらえればと思います。
THETA Xのバッテリーは、RICOH GRシリーズと同じDB-110ですね。
大熊(エレキ):THETA Xの本体サイズを確保するため、GRシリーズと同じDB-110をバッテリーとして使用しています。THETA VやZ1でも、本体内では同じバッテリーを使用しています。ただ、THETA Xは大型タッチパネルを搭載しているため、電力消費が多く、電力面での課題はあります。この点は今後引き続き、本体ファームウェアアップデートなどで、改善していきたいと考えています。
THETA Xへの期待
大熊(エレキ):THETA Xはタッチパネルが搭載され、UIが劇的に変わり、プラグイン開発のしやすさなどカスタム性も向上しました。使って頂くユーザーの皆様が、それぞれ使う方向を模索して、色々なかたちでTHETA Xを活用して頂けると嬉しいです。
千秋(画質):THETA Xは、操作性の向上や画質の観点から、全天球の静止画、動画撮影に関して、今までよりも使いやすい機種になったと思います。色々開発上苦労した点もありましたが、簡単に撮影や閲覧できる点が良い機種だと思うので、ぜひ色々な方に使って頂きたいです。
鳥海(光学):THETA Xは従来機種と比べて操作性が大きく向上しました。スマホが無くても様々な操作ができるため今までよりも気軽に撮影できるようになったと思います。ぜひTHETA Xを使って色々な撮影を楽しんでいただければと思います。
北條(開発L):THETA Xの発売後、主に静止画質の観点でTHETA Z1と比較をされることが多い機種ではありますが、エンジニアの視点ではTHETA XはTHETA Vの後継機だと捉えて開発しました。先にも申し上げたような静止画・動画機能の性能改善だけではなく、GPSやバッテリー・SDカードの交換対応等、これまでのTHETAではやれていなかった多くの不満点をいっぺんに解消しました。その中でも、個人的には、タッチパネルの搭載によってTHETA V/Z1ではまだ活用の幅が限られていたプラグインが非常に使い易くなったので、その点がどう評価されていくかを楽しみにしています。
編集:平川