2022年8月3日に公開したTHETA Plug-in 「Starry Sky Snap」は、簡単に星空を撮影できるプラグインです。星空を撮影するには、色々な撮影設定が必要ですよね。このプラグインは、星が見える環境でシャッターボタンを押すだけで、カメラが星空の状態を分析し、最適な撮影設定で撮影を行います。今回は、このプラグインを企画・開発した山本さんから、このプラグインを使った星空撮影についてご紹介いただきます。
※2022年8月3日現在、RICOH THETA Z1、RICOH THETA Vに対応しています。

皆さん、こんにちは。このプラグインを企画・開発した山本です。
RICOH THETA は、2015年発売のRICOH THETA Sの頃から星空と地上の景色を丸ごと全部記録できる360度カメラとしても知られるようになりました。 その後、2017年に発売された THETA Vでも同等レベルの撮影ができます。フラッグシップモデルのTHETA Z1については、1型センサー採用により、現在RICOH THETAシリーズの中で最も星空を撮影することに向いた360度カメラです。

360度カメラを準備し、沢山の星が見える場所に行けても、露出プログラムをマニュアルにして、シャッター速度やISO感度などの設定をどのようにしたらよいか? 設定値を変えながら試行錯誤をするにしても、複数の項目をどの数値からどのように変更していくか?と悩ましいです。1枚試写するにしても時間がかかります。暗闇の中で撮影した画像を確認して「ヨシ!」と思っても、普通に生活する中で見直した画像がその時より暗く見える、などなど、暗闇での撮影に慣れていないと、なかなか感じた通り、伝えたい通りの写真を撮ることが難しかったのではないかと思います。

そんな困りごとを、シャッターボタンを押してしばし待つだけで解決してくれるのがこのプラグインです。「星空が見える場所で設定決めをしてくれるプラグイン」と思っていただくのが適切かと思います。

夏の夜空に、高い位置を流れる天の川が見える場所に行けた場合であればこの通り。

目で見て「星が沢山見える!」という場所に行ければ、このような写真が簡単に撮れるようになりました。上記の例ですとシャッター速度が60秒で撮影されています。

細い月が低い位置にあるような、「星が沢山写る」というには少し明るい夜空であっても、10秒~20秒の露光時間が必要です(月が満月かのように誤解をするかもしれませんが、細い月の夜です)。

「星が沢山写る」とは言えない、あまり欠けていない月が出ている夜でも、5秒~8秒程度の露光時間を要します(月の光によって、地上に三脚の影がくっきり出ています)。

このような長い時間、カメラをぶれなく手持ちできませんので、このプラグインで撮影する時には、必ず三脚などでTHETAを固定してから利用してください。

なお、固定する時のTHETAの姿勢は問いません。天頂補正のしくみが働いているので、保存される画像は空が上、地上が下となります。このプラグインが夜空の明るさを判断するときも、THETAの姿勢によらず空方向を確認します。

これまで紹介した作例では、上図で示した夜空の明るさを判定する領域に、月の強い光が入らないように撮影していますが、入っていてもその影響をなるべく低減するように撮影設定値を決定しています。少しであれば雲が入っていても大丈夫です。木の枝や建物などがエリア内に入らないようできるだけ開けた所で撮影すれば大丈夫です。まずは、気楽にご利用ください。

Starry Sky Snapは、その時その場所の夜空の明るさをお知らせできる

THETAを固定し、Starry Sky Snapを起動して、シャッターボタンを押す。

あとは待つだけで、ここまで紹介したような画像が撮れるわけですが、これらの作例をみて気づいて頂きたいことがあります。それは「夜の明るさには多様なバリエーションがある」ということです。シャッター速度ひとつをみても、とても幅があるのです。

おそらく、夜の撮影に慣れていない人にとって「夜の空=暗い」という1つのイメージではないでしょうか? 例えば、朝→昼間→夕方にかけた、人が活動する時間帯に感じる「空の明るさ変化」が夜にもあると感じている方は少ないのかと思います。これは、人間の視覚が自動で補正を行っているので、そのように感じてしまいます。

実際は、太陽という強い光がないために、「月の光の変化(満ち欠けと高さ)」だけでなく「人が暮らす街の光」という体感しにくい光の影響も受けています。厄介なことに、日時・地点で夜空の明るさは異なるのです。別の地点、別の日時の撮影設定をコピーするだけでは望んだ結果は得られません。初心者の方が「星空の撮影は難しい」と感じるのは、こういった理由からです。

作例と共にこの説明を読んで頂くと「なるほど、そうか」と思っていただけそうですが、機材の操作がシャッターボタンを押すだけとなっても、実際に撮影をしたその場所、その時間がどんな状態であるのか判断できるようになるには時間がかかりそうです。

そこで、このプラグインは、撮影結果が得られると以下のように夜空の状態を表示するようにしました。THETA Z1の場合、本体のOLEDディスプレイに文字列が表示されます。THETA Vは無線ランプの色で結果をお知らせします。

表示に対する夜空の明るさ目安は以下のとおりです。

[TOO DARK FOR THETA] →星空撮影には向いているが、THETAには暗すぎる夜空。
[GOOD STARRY SKY]  →星空撮影に向いている夜空(細い月が低い程度を含む)
[ A LITTLE BRIGHT SKY] →星空撮影をするにはちょっと明るい(半月よりは欠けた月)
[ TOO BRIGHT SKY] →星空撮影をするには明るすぎる(満月の夜、月が高いなどなど)

※[NOT STABLE SKY]は極端な明るさ変化(試写の途中で強い光に照らされたか、レンズが何かに覆われるなどした)を検出したときの表示ですので、夜空の状態を示すものではありません。基本的には上記4段階のいずれかとなります。

こんな撮影結果も参考にして、星が沢山写る場所や日時を選びの参考にしていただければと思います。

しかし、闇雲に、ご自身にとって「暗い」と思う場所へ、新月の夜に訪れて撮影したとしても、「TO BRIGHT SKY」が表示されるようなことがあるかもしれません。

そんなことを避けたい場合、街の光が夜空に与えている影響を示した、以下地図サイトなどを参考にして撮影地点を選ぶのも良いと思います。

Light pollution map(光害マップ)
https://www.lightpollutionmap.info/

例えば、日本の東海地区~関東地区あたり表示すると以下のとおり。

目安として、夏の天の川がそれなりに写るのは緑色より青みがある地点です。

富士山の裾野でキャンプ場があるような地点でも北西方向以外は、黄色味がかっています。八ヶ岳周辺のエリアは青く、良い星空が観望できそうだとみてとれます。

[TOO DARK FOR THETA]が表示されるほど暗い夜空は、日本国内ですと主に離島になると思います。海外ではもっと沢山のエリアがありそうです。

RICOH THETA Z1で使えるさらなる星空撮影サポート機能

THETA Z1については、撮影後にFnボタンを押すと、撮影設定を表示できるようになっています(Fnボタンを押すたびに、「夜空の判定結果」と「撮影設定」の表示が交互に切り替わります)。

これは、以下2つのことを考慮して表示するようにしました。

(1)THETAで、お好みのシャッター速度とISO感度のバランスで撮影しなおす
 このプラグインでは、画質を優先し、不用意にISO感度を上げ過ぎないようにしています。例えばこのプラグインの撮影結果が ISO1600 60秒となった場合、人によっては「ISO3200 30秒の結果が欲しい」となるかもしれません。

いちいち画像をダウンロードしなくても、撮影後に設定が表示されますので、希望しないISO感度とシャッター速度のバランスであった場合、直ぐにプラグインを終了し、ご自身でマニュアル撮影をするということができます。

全天球の星空タイムラプス映像を作るためのインターバルがしたいという時も、ひとまず、このプラグインでおすすめ設定を知ってから、撮影をするのが良いと思います。

(2)他のカメラで星空を撮影する時の参考にする。
 THETA Z1が1型センサーを採用しているとはいえ、現在流通しているレンズ交換式カメラの大半は、より高感度画質が良い大型センサーを採用しています。

それらのカメラもお持ちの場合、このプラグインで決めた設定値を参考にして星空撮影するのも良いと思います。試行錯誤の回数を減らせますし、場合によってはそのままの数値でヨシとなる可能性もあります。

「絞り値」-「ISO感度」-「シャッター速度」-「ホワイトバランス」が表示されるのですが、参考にするのは「ISO感度」、「シャッター速度」の2つだけで良いと思います。ひとまずこの2つの値はそのまま入力し、絞り値はお持ちのレンズの開放(一番小さな数値)として、試し撮りを開始する初期値とすると良いと思います(とはいえ、開放絞り値がF3.5よりは明るいレンズを使って頂くのが良いと思います。焦点距離も35mm換算24mmより広角のレンズが良いと思います)。

知識がある方は、「その設定では、レンズが暗くなる分だけ、暗い映像になるのでは?」と疑問に感じると思います。確かに街灯りの影響が少ない好条件の場所や、真上付近の空だけを撮る場合はそうでしょう。しかし、一般カメラで撮影する場合、全ての方向を記録するTHETAとは異なり、限られた範囲を撮影します。地上の景色と星空を広角レンズで1枚に収めるような場合、THETAが夜空の明るさを判定している高さより低い空を撮影することとなります。そのような地上に近い夜空は、遠方の街灯りの影響を受け、真上方向よりも明るいことがほとんどです。そうすると多くのケースでレンズの明るさの違いが相殺されることとなります。すると、試行錯誤の初期値とするには都合が良いISO感度、シャッター速度となるわけです。

試行錯誤の際には、以下のように操作をしてください。

(2)-1 明るさを決める
お好みによりますが、「ISO感度」か「シャッター速度」どちらか一方の数値だけを変化させて写真の明るさを決める。

(2)-2 ISO感度(画質)とシャッター速度(星の移動具合)のバランスを決める
写真の明るさが決まったら、シャッター速度を短くした段数と同じだけ、ISO感度の段数を上げる(大抵片方を1つ変えたら、もう片方を1つ変える、など表示される数値の並びに従うだけでよいはずです)。逆にシャッター速度を長くした場合はISO感度の数値は小さくします。

露光時間が長いほど星が移動して写るのでシャッター速度を短くしたくなります。シャッター速度を短くする分だけISO感度を上げると、画質はザラザラとノイズが多くなります。このバランスをお好みの状態に整える行為となります。お持ちのカメラによっては、暗い場所であるほど、すべてが良い状態とはなりません。なにかを少し諦めることも必要となります。

(2)-3 ホワイトバランスを決める
最後にホワイトバランスをお好みの設定にして撮影します。RAW現像で後から調整できる方は、帰ってから試行錯誤できますので無視してください。

光害の影響が少ない場所で月明かりがない場合、色温度指定で 4200K くらいから、その前後を試行錯誤するのが良いでしょう。判断が難しければ 少しずつ値を変えて複数枚撮影しておけば当たりがあるでしょう。月の光がそれなりにある場合、カメラによっては「オートホワイトバランス」に任せてしまっても大丈夫かもしれません。

数値の意味を理解して、うまく機材を使えると、このプラグインは「星空撮影先生」としても役立つと思います。

プラグインの特性を利用して小技を使う

このプラグインで夜の明るさを判定している方向は仰角60°より上方のみです。

それほど強い光でなければ、あまりシビアに「消灯」を心掛けなくても大丈夫です。

THETAのレンズが視線よりも高いところ、可能であれば、三脚に自撮り棒も組み合わせて、頭より高い所に設置し「THETA周辺の地面を照らして撮影する」ということをしても大丈夫です。

白熱灯に色味が近い小さな”暗い”ライトで地面に向け、ゆっくりと歩き回って撮影した例が以下となります。(白色や青みがかった光は避けたほうが無難です)

地面が明るく写っていますが、かなり暗いライトで照らしています。とても暗い環境で、暗い色の服を着ているので、ゆっくりとでも歩いていれば自身は画像に残りません。

天の川が映るような暗い場所ですと、せっかく全方位が記録できるカメラなのに地上は真っ黒です。三脚を立てた周囲だけでも照らすと、ちょっとしたアクセントになります。

ちょっとおまけの撮影テクニックでした。

おわりに

このプラグインを使うことで、星空が見えるところにさえ行ければ、簡単に星空撮影が行えるようになります。そして、このプラグインで撮影を行ったその時の夜空の状態がどんなものかを知ることができます。撮影諸設定の難しさから解放されても、良い星空が観望でき、撮影できる場所が、如何に貴重なものか感じていただけると幸いです。そして「たまたま写った」から、季節ごとに見える星座の違いや、一日のなかでも変化する星の動きにも関心をもち、「狙った星空」を撮影できるようになっていって頂ければと願います。

RICOH THETA Z1ならば、撮影後の設定値表示を利用して、他の一般カメラで星空撮影をするときの先生のように利用することもできます。RICOH THETAで星空を撮るというだけでなく、一般カメラで星空撮影をするときのお供としても活用して頂ければと思います。星空を売りにした観光地も目立ってきています。観望や撮影イベントを行うホテルなども増えています。そのようなイベント用に1台用意して頂くのも便利だと思います。

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