技術者が語るRICOH360を支えるテクノロジー

vol.3  「技術を発明に」名もなき原石が輝くまで

 

 このシリーズでは、RICOH360を支えるテクノロジーについて担当する各領域の技術者へのインタビューを通し、4回にわたりご紹介します。

 第3回は、技術を支える特許について。私たちの技術は、特許によって多くの恩恵を受け、そして守られています。企業、ひいては社会のために存在するこの権利。開発者との関わり方から360度カメラRICOH THETAの特許秘話まで、知財担当者にお話を伺いました。

発明はどこにある?

 特許とは、ある基準を満たした〈発明〉に与えられる独占的排他権1のことです。この発明という言葉から、みなさんは何を想像しますか?エジソンやノーベル賞といった歴史的な人物やドラマ、はたまた町中で工作するおじさんなど、様々かもしれません。

 では改めて、発明とは何でしょうかーー答えは〈思想であり、技術的な観点が盛り込まれているもの〉です。

 簡単な一例を、THETAから考えてみます。「360度が撮影可能なカメラである」と言う思想だけでは発明にはならず、「魚眼レンズを2つ備え、各レンズに撮影素子を配置して360度全天球が一度に撮影できるカメラ」…ここまで掘り下げてようやく発明となり得ます。

 しかし、ただ技術的な観点を加えればいいという話でもありません。前述の「魚眼レンズを2つ備えた」以外にも、定義はいかようにも存在するからです。技術のポイントをいかに見抜き、権利にすべき発明に導くのか?こちらはインタビュー後半の、THETAの特許にて紐解いていきます。

1 独占的排他権:独占性(特許権者が独占的な実施ができる)と排他性(他社の実施を排除することができる)の両方を備えている特許の別称です。

二人三脚で切り拓く

 知財担当の秋山さんは、常に開発者と協同してプロジェクトを進めます。お互いに専門が異なる中で意見を交わすには、彼らの特性をよく理解することが大切だと話します。

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秋山 光一

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2008年 現リコーイメージング入社

特許出願・権利化・知財戦略のエキスパート。知財訴訟では負けたことがない。

趣味は釣り。最近は、サックス、サウナにハマり始めた。

 「エンジニアは日々、非常に高い技術を学んで開発されています。プロフェッショナルが相手なのでこちらも勉強しないといけないのは勿論ですが、あまりの技術水準の高さゆえに、空中戦のような難しい話になることも。そんなときは『実際に製品に落とし込むとどうなりますか?』『それによってどんな効果が生まれますか?』と、立ち返る問いかけを挟むようにしています」

 また、製品化のためにあえて技術やスペックを落としている可能性があれば、その制約を外したらどうなるかを確認します。〈なるべく発明を広く捉えていきたい〉と考える秋山さんのこだわりです。開発者もイメージしやすいように「他社でやる場合でも同じですか?」と問いかけるそうです。

 現在はSaaS plus a Box(サービスとカメラを組み合わせ、より良い価値を提供するビジネスモデル)をフォローするための〈発明を確認する会〉があり、本社の知財部と事業部の知財部、開発者の三組で話し合うことも増えました。お互いの発言に刺激を受けながら、特許としての価値をより高める良い機会に。知財と開発のコラボレーションは、今後も益々強くなっていくでしょう。

本質を、分かりやすく

 秋山さんの担当案件に、2022年に登録されたRICOH THETAの特許があります。

 一般的に、特許を取るのは長く険しい道のりです。出願2してすぐに終了する筈もなく、拒絶3を受けたり認可に何年もかかったりします。

 その前提として、〈分割出願4〉という制度があります。これは特許を出願した後に、要件を整理して、改めて気づいた発明を特許にするために、もう一度出願し直すことができるものです。メリットは、出願日は変わらず元のままであること。上手く使うと有力な武器になり、知財担当はよく活用しているそうです。

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 THETAの大元の出願は、2012年。発明のポイントは本体の中心・重心の関係でした。「中心よりも下に重心があることで、落とした時に床とレンズが当たりにくい(=重心側から落ちる)」という思想です。

 2019年に秋山さんの担当案件になり、「確かに面白いのですが、もっと本質的なところは何だろうかと考えました。レンズが上にあって真ん中にボタンがあって、これを手でホールドして親指で押す……あれ、こんなカメラって2012年の当時では他に無かったんじゃないかなと」

 中心や重心ではなく、そもそものTHETAの形状だけで、特許を取得できるのでは。そしてそれは、誰もが見た目に分かりやすい特許になるのではないか。仮説を立てた秋山さんは、改めて気づいた発明を特許にするために分割出願をして権利化に臨みました。

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 「レンズはボディから飛び出ていて、シャッターボタンはレンズ光軸と同じ方向に押せる。この〈配置〉と〈押す方向〉によって使いやすいーー最終的に、このような内容で特許が取れました。

 大元の出願と共通するのは、レンズが上の方にあることです。そのため左右どちらの手でもホールドでき、親指で押せる。あとは必須な要素は押す方向だなと、登場人物5を見立ててストーリーをつくりました」

 特許庁の審査官と面接6するときは、論理だけでなく魅力的なストーリーも大切だと話します。大元との共通点も活かしつつ、面接ではその素晴らしさを力説し、晴れて特許として認められました。

2 出願:特許を取得するために発明を所定の書類に記載して特許庁へ提出することです。正式には「特許出願」と言います。

3 拒絶:審査過程において、特許庁の審査官から特許要件を満たさない旨が通知されることです。正式には「拒絶理由通知」と言います。

4 分割出願:元の出願書類に二つ以上の発明があるときに、その一部の発明で新たな出願をすることです。なお分割出願の基準日は元の出願日に遡及します。

5 登場人物:特許実務では、ストーリーを有する請求項のそれぞれの構成要件を人物に例えて「登場人物」と表現することがよくあります。

6 面接:特許出願の審査に関するやり取りは書面主義が原則ですが、意思疎通を図るため、特許庁の審査官と出願人とが直接会って面接が行える制度のことです。

企業、そして社会のために

 知財のエキスパートとして活躍する秋山さんは、高校、大学ともに工業系の出身です。

「専門は材料工学です。力学や物性、金属疲労などを勉強していましたが、あまり自分にハマらず(笑)従事したくないなと。ふと授業で知財を学んでみたら、この業界やルールの面白さに触れました。その流れで知財に関する資格も取得し、さらに意欲が湧いてきて、今に至ります」 

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 知財において様々な案件を担当することが多く、RICOH360の他にもカメラ全般や、研究開発に携わったことも。〈世の中に触れるもの、人の役に立つもの〉に貢献したい気持ちがあり、今の仕事はとてもやりがいを感じているようです。

 普段はあまり表に出ることのない、知財のあれこれ。何かと書類業務に追われるのかと思いきや、活発に周りと意見を交え、特許庁にも赴くアグレッシブな姿勢が見えました。

「10〜20年ほど前の、数を取ればいいという時代ではなくなりました。これからは事業にとって最適なアセットにすることが大切です。360事業が拡大している中において、重要な技術は先んじて特許で保護し、〈事業活動を支えていく〉という考え方がRICOH360にマッチします」

 名もなき技術に光を当て、長く寄り添っていく。そこには私たちの未来を見据えた、強い意志が込められていました。

REFERENCES

RICOH THETA

https://www.ricoh360.com/theta/