360データで地域文化財を伝える
~その場に行く以上の体験を提供する~
背景
日本にはたくさんの有形・無形の文化財が存在している。
世界遺産などの他から多くの人が訪れるような観光地ではないが、地域の人々が代々継承し、むしろもっとも身近で、手に触れ、体験することが可能なものである。
昨今、代々継承されてきた“地域の文化を自分たちの力で守り、伝えていく”という気持ちは、残念ながら薄れつつあり、地域文化の継承が困難になってきている。
360データで地域文化の継承を
横浜市に修行僧が何年もかけて手で掘り進めた洞窟がある。
この 「田谷の洞窟」は、小さな里山の地中にひっそりとある修行洞窟で、横浜市登録地域史跡と言う文化財である。
全長約570メートルの洞窟は鎌倉時代から江戸時代(12世紀から18世紀)にかけて修行僧たちによって作られたと言われている。三階建て、11のドーム型の空間があり、内壁には修行僧が苦労して彫り上げた約300点余りの美しいレリーフを見ることができる。
さあ、洞窟の中へ入って、体験してほしい。
田谷の洞窟保存実行委員会は、この貴重な地下文化財を次世代に可能な限り現状の姿のまま継承すべく、デジタルデータ保存を試みている。
地域文化を身近に感じ、自分たちが守り後世に伝えていくものだというマインドが生活の中で醸成され、自然とみんなで守っていくようになってほしいと。
360データの価値
今、お見せしている360データによって、あたかもそこに洞窟があるかのように見ることができる。いや、その場に行ったときよりも、360度すべて美しくする画像処理の技術によって細かいレリーフなどの細部までをおそらく当時のままに見ることができる。もちろん、その場を訪れることが大事だが、その場ではできないような、見たい場所だけを行ったり来たりすることもできる。
そして、何より、RICOH THETAは、その特徴である小型ですべてを撮る技術によって、洞窟のような狭い場所での撮影も可能だ。
近年の気候変動。気象庁の資料によれば、1時間の降水量が50mm以上の降雨の年間の発生回数がこの10年間で約20倍も増加しており、洞窟の深刻な浸食につながり、劣化の恐れがある。
洞窟内の下を見ると、壁面から染み出る水の水路として溝が足元に掘られてもいる。
デジタルデータは年月を経ても継承され続ける。360データによって人々の生活や文化を後世へ伝えていくことができる。また、その場で見るだけでなく、学校や地域、海外の人たちへも伝えることができる。この洞窟を掘り進めた先人たちがどのような思いでどのような日々を過ごしていたのか。人手で掘り進め、ここまでの洞窟を作り上げた技術や思いがどのようなものなのか。
このようなデジタルデータの取り組みが世界のあちこちでできたら。先人が残した財やそれが存在する地域を大事にすることは、とりもなおさず、他の国、宗教、文化、人々を尊重することにつながっていくはずである。
参考
Taya Caves
リコーコーポレート記事
https://jp.ricoh.com/about/viva-la-genz/explore-an-ancient-japanese-artificial-cavern-in-360/
関連技術
- 小型カメラ
- 超解像技術